優しい嘘 公演情報 劇団BLUESTAXI「優しい嘘」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    我が家の近くにもこんな人情味溢れるスナックがあればなぁ、と思わせる癒しの空間。観る人を笑わせながらも、優しくしっかり包み込む公演。
    スナックがある街もシャッター商店街と言われ、コロナ禍という台詞こそないが苦境・閉塞感漂う状況下。それでもスナックに居る女性や常連客は地域に根ざして強かに生きている。
    物語は、一見賑やかなスナックの光景を見せつつ、実は3姉妹の確執や出入りする人々の悩み事や問題を丁寧に描き、そこに隠された哀しみで観ている人の感情を揺さぶる。その優しく癒された心情を(ザ・)ポケットにしまい家路につくことが出来る秀作。お薦め。
    (上演時間2時間 途中休憩なし) 【Bチーム】

    ネタバレBOX

    舞台美術は、本当のスナック店内のようで、しっかり作り込んでいる。上手にボトル棚、カウンター・腰高スツール、下手に少し幅広のソファが置かれ、中央奥が店の出入口。窓にカーテンを吊るし、調度品や小物が品よく並ぶ。一瞬にして物語の世界に引き込まれる。この丁寧な拘りが良い。店名は「消しゴム」、実は亡き母が経営していた店で、その時の店名は「ぼったくり」。汚名というか悔悟の気持から、何とか黒歴史を消したい思いが今の店名。母が亡くなる直前に残した言葉は、長女の鮎川香織(笠井渚サン)だけが聞いており、妹達ー詩織(鈴木絵里加サン)・早織(矢吹凛サン)は臨終に間に合わなかった。母の言葉は姉・香織から聞いたが、それがタイトル「優しい嘘」である。母は奔放な人生を歩んだようで、その生き様を反面教師に育った香織の愛憎は深い。

    物語は、近所のコンビニ店長とバイトの男が飲み歌い(カラオケ)の大騒ぎ。それをホステス2人が見事に捌く場面から始まる。また常連客の1人でスナックママ(香織)の一人娘の高校教師(担任)が、ママの妹・早織に恋心を抱いている。また昔ながらの文具店主は一回り年上のママに恋心。10年ほど前に店の売上金を持って失踪した詩織が、胡散臭そうな男・長谷部達郎(三枝俊博サン)を連れて帰ってくる。早織は職場の先輩と不倫をしており…。色々な出来事が起きるが、場面ごとにクスッと笑わせるのが達郎の絶妙なツッコミ。役者陣のバランスが実に良く心地よく観られる。

    それぞれの悩みや問題を一気に吐き出し、混迷する姿を面白可笑しく描くが、裏を返せば相談する相手や場所がない哀しさも見えてくる。物語に真の悪人は登場しない、逆にお人よしの善人ばかり。人の感情の起伏(愁嘆場)は見えるが、話としての どん底はなく安心して見ていられる人情劇。やはり心に響くのは、女性として生きるのか、母性として生きるのか…二者択一という追い詰めた「性(サガ)」が物悲しい。そう言えば、店内に「時雨桟橋(市川由紀乃の歌)」のポスターが貼られているが、その歌詞は繊細な女心を歌い上げたもの。

    終盤での香織の心情吐露シーンは観応え十分。荒ぶる気持を抑えつつ、それでも言わずにいられない胸の内を情感たっぷりに演じる。そしてラスト、3姉妹でキャンディーズの「春一番」を歌うことによって、取りあえず何かを吹っ切ろうとしている姿がいじらしい。本公演はカラオケシーンが何度となく出てくるが、その都度 観客を物語(話)だけではなく、スナックという仮想世界へ誘い戻す。そこに演劇としての「優しい嘘」という虚構性に酔いしれる。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/11/20 11:54

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  • 鈴木絵里加 さま

    コメントありがとうございます。そしてお疲れ様でした。
    未見の劇団で、こんなに素晴らしい公演を観させていただきラッキーです。
    次回公演も楽しみにしております。

    2021/11/26 10:27

    タッキー様
    ご観劇ありがとうございました!
    美術の丁寧な描写で、あのスナックでの日々が甦りました。
    物語のコミカルな部分とその裏のそれぞれの哀しさ、読み取って言葉にしていただいたこと、うれしく思います。
    『演劇としての「優しい嘘」という虚構性』という一文にシビれました…!
    次回も、劇場で同じ時を共有出来ますように。

    2021/11/26 08:06

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