ザ・ドクター 公演情報 パルコ・プロデュース「ザ・ドクター」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    現代社会の様々な問題がおりこまれているが、アイデンティティー・ポリティクスのことを考えさせられた。人種、ジェンダー、宗教など人の属性(アイデンティティー)による差別・利害を政治的課題とすることをいう。ブラック・ライブズ・マターやミー・ツーなど今大変盛んである。しかし、そういう属性で線を引くと、見えなくなるものがあるのではないか。

    医師ルース(大竹しのぶ)が「人間である前に私は医師です」というセリフの意味はそこにある。白人、ユダヤ人、女性etcという範疇で「神父の入室を拒んだ行為」を批判されるが、医師として医療として考えなければならないという訴えだ。2幕のテレビ討論番組ではこれが焦点になる。
    1幕は病院の役員会での議論場面がつづき、少々疲れる。しかし2幕でいろんな仕掛けがなされて、舞台の奥行きがぐっと広がる。

    1幕では、死んだ娘のカトリックの父(益岡徹)が「中絶という大罪を犯した娘が、罪の許しを得ないまま、地獄の業火で苦しみ続けているんだぞ」と泣き崩れるところが心に響いた。カトリックのまじめな信者は、そう考える灘、だからルースの行為が大問題なんだと。私も宗教に疎いので、その場面でようやくことの意味が分かった。

    ネタバレBOX

    神父(益岡徹=2役)は黒人という設定だが、元戯曲は白人が演じるように指定している。これはうまい。観客はルースが黒人だから拒否したのではないのに(事件が起きた時は白人が演じているので)、あとで「黒人差別だ」という非難が的外れであることが明瞭にわかる。今回は当然、黒塗りなどしないで演じている。

    討論番組で、よく遊びに来る大学生サミ(天野はな)のことを、「トランスジェンダーの子がいて」とお語るのもちょっとした驚きだった。それまで普通の女性としか見えないので。しかし、このアウティングにサミ自身が傷つくと後でわかる。本人とはわからないように語っているのに、近しい人にはわかるから。難しい問題をうまく提示している。

    冒頭で流れるルースの声の録音の意味が、最後にわかる。かたくなで杓子定規とも思えたルースの、心の奥の深い喪失感がわかり、舞台の見え方が変わる。

    イギリスではこの芝居の提起する問題が刺さるが、日本に持ってくると、どこか実感が薄く感じられる。特に階級の違いは、舞台から感じられなかった。これは仕方のないことではあるが。

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    2021/11/17 12:35

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