おせん -煎餅の神様- 公演情報 さんらん「おせん -煎餅の神様-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    未見の劇団…面白い!
    陽気な群舞、渡世人風に仁義を切る、人妻と元プロレスラーの格闘といったバラエティな笑い観せ方、何より驚かされたのが、タイトルにもなっている煎餅の神様・おせん が、ある飲み物を一気飲みする、それも2回。「♬芸のためなら女房も泣かす」(浪花恋しぐれ)という歌があるが、ここでは「劇のためなら喉も鳴らす」といったプチ サービス。もちろん表層的な面白さだけではない。物語の根底は、東京・葛飾区堀切という下町の人情、それを情感豊かに描いている。そこには家族や地域との絆、さらに人の再生と(煎餅)技術の継承、そして新たな工夫が…。
    おせん は、推定700歳という設定であり、時空を超え現在と過去を往還し、自身が存在する理由を説く。
    もちろん商売を扱っているから、コロナ禍の状況を揶揄・諷刺し、演劇へ昇華させている。ただ物語は、2022年という1年後の設定であることから、新たな展開を模索しているようにも思える。
    (上演時間2時間10分 途中休憩10分) 

    ネタバレBOX

    客席はL字型、舞台セットは、中央にテーブル・丸椅子、その横に煎餅を焼く火鉢、業務用冷蔵庫、2畳ほどの座敷、座蒲団といった簡素なもの。しかし物語を紡ぐには十分な作り。

    冒頭、若い女性が店内を掃除する場面から始まるが、この女性が主人公・おせん(高橋みのりサン)で、推定700歳の神様にはとても見えない愛らしさ。団子頭、柄のある赤い袖無羽織(ちゃんちゃんこ)、白いもんぺ姿は、確かに現代では見慣れないファッション。彼女は煎餅店が無くなると居場所がなくなり消えてしまうらしい。

    物語は地元で愛された手焼き煎餅の高野屋が舞台。主人・高野華吉が亡くなるが、この店の跡取りであった長男・柾(中村有サン)は5年前に失踪。無責任で覇気の無さを見事に体現。それが葬儀後、突然帰ってきて煎餅作りをするが、父親みたいに美味い煎餅が作れるはずもない。そんな時に おせんを引き取りに来た埼玉県草加市の立花製菓店と神様の居場所を巡っての綱引きが始まる。
    何となく、同名の漫画「おせん」を連想する。こちらは料亭という設定で、普段は天然の姉さんだが鋭い感覚で料理をする女将「おせん」こと半田仙が繰り広げるグルメ人情ドラマ漫画。下町の風情にいなせな職人気質の大工や極道の親分など多彩な人物が登場する。本公演も多彩な人々が義理と人情をたっぷり観せてくれる。

    なぜ草加(有名ではある)が突然出てきたのか不思議だったが、現在のような煎餅は、草加宿で団子屋を営んでいた「おせん」という老婆が、「団子を平らにして焼い」て売り始めたのが起源らしい。勉強になった!
    物語では、1567年加賀、1594年京都伏見(映写説明)といった戦国時代に貧き人々と話をする場面があり、煎餅に歴史があることを表す。そして、おせんが戦国時代に会ったのが、立花製菓社長・輝虎であり五郎太(2役:久手堅優生サン)。因縁めいたものを感じた おせん は草加に行く決心をする。高野煎餅店は立花製菓店の協力を得て、再び商売が出来るようになる。地域が違うから商売敵になるか分からないが、手焼き煎餅の技術を継承させる、そこにコロナ禍における業界の団結を見るようだ。以前は店内で食べ飲んでという商売も出来たが、今のご時世と柾の腕前では叶わない。そこに今事情の悲哀を見ることが出来る。

    役者は個性豊かな登場人物を生き活きと演じている。突拍子もない人物ではなく、そこに居そうな、地に足をつけた人々ばかり。おせん・高橋さんは瓶コーラの一気飲みを2回もした。途中で咽たりゲップがでないかハラハラしたが、見事に飲み切った。愛くるしい神様を好演。下町らしく煎餅生地を卸す薮島 父の喜十郎(若林正サン)・娘の伊都子(上野恵佳サン)の人情味、柾の妹の赤羽楓(小島奈緒実サン)の格闘(空手?)も迫力があり力演。その夫・一(渡辺恒サン)はギスギスする雰囲気を和らげる緩衝的役割を誠実に演じる。弟で人気俳優の高野桂(小林大斗サン)は実直な青年を好演。立花製菓製造部長・太刀洗舞子(竹中友紀子サン)は仁義を切る、土下座といった男勝りの活躍。出番は少ないが、立花製菓社員の柴田竜童(前野強サン)は楓と戦うが負けてしまう。ボソッと「あんた強いな!」は親しみある声掛け。全体的に繊細な人物描写が素晴らしい。あぁ遠くで電車が走る音が聞こえる。ほんと下町風景だな~。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/11/09 00:38

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