ぽに 公演情報 劇団た組「ぽに」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    現代の市井で使われている言葉が、劇的言語として舞台に登場した。
    KAATの大スタジオに円形舞台に組んでいて、中央に砂場のような丸い囲みがあり、向かって上手から太い綱で編んだ粗目の網が天井に向かって伸びている。囲みの中が室内、出口は、網で、外へ出ようとすると網を上下するのに四苦八苦する。現代の独特の内向的なところがこういう風に舞台化されているのもうまい。幕開きで、小道具操作が囲みの中の二つの箱から児童向けのプラスティック玩具をぶちまけて芝居が始まる。
    二十代後半、松本穂香と藤原季節の通い同棲中のカップルが、うじうじと日を過ごしている。穂香は育児シッターのアルバイトをしていて小生意気な五歳児を預かっている。二人の話題は海外留学で英語を覚えたいという他愛ない話なのだが、やがてそのとりとめなさがテーマだとわかってくる。今風の会話がちゃんと舞台のセリフになっている。
    若者の現代風俗を素材にした舞台ではもうだいぶ前に岡田利規の「三月の五日間」という秀作があったが、こちらはセリフを軸に松本穂香と藤原季節の二人が生き生きと動く。言葉は舞台を制する。ことに松本穂香はテレビでも活躍していると聞くが、舞台でこその魅力がある。
    だが、そんな二人は自分が生きることにも、他人へのかかわりにもまるでモラルがない。男女の関係はあるが、人間愛はない。あずけられる子供、預けて良しとする両親、託児サービスの所長、と周囲は広がっていくが、どこも張り付けたような笑顔の裏はモラル欠陥社会である。そこをこの若い作者は実に巧みに展開する。本作の見どころでもある。
    そこへ、大地震が起きる。
    混乱の中で、預けられた子が行方不明になる。その責任はどうなる。男女がお互いに無責任であったことも、周囲が全く頼れないこともあきらかになってくる。そこへ、行方不明の子どもが帰ってくる。43歳になって、手足は既に黒ずんでいる。これは「ぽに」だ。
    突然舞台はファンタジーのような展開になる。育児時間の延長の事務処理というリアルなエピソードからファンタジーへと飛躍するが、テーマは外さない。
    とにかく、見せ切ってしまう力量は大したもので、肝心の「ぽに」は結局よくわからないままに大団円になる。なんだか初期の野田秀樹の芝居のようだが全体の印象は全く今の空気だ。それが、コロナの終息が見えてきた今という瞬間と連動しているところがすごい、休憩なしの二時間。
    新しい才能が確実な一歩を踏み出している。
    苦言を言えば、円形舞台を使うのには今少し細心の注意が必要だ。私の席は左側だったが、俳優を丸く動かすのはうまいのだが背中を向けると折角のセリフに随分聞こえないところがあった。今は場内拡声の技術も進歩しているからマイクやスピーカーを仕込むことはそれほど難しいことではないだろう

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    2021/10/30 21:11

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