「あの怪物の名は太陽の塔」 公演情報 The Stone Age ブライアント「「あの怪物の名は太陽の塔」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ヒロインの石松千明さんが素晴らしい。70年代のあの感じの女の子。文通相手に会いにわざわざ大阪まで出て来た東京の女子高生。開演前SEで「雨にぬれても」が流れ、バート・バカラックの叙情的なムードで舞台は開幕する。大田康太郎氏演ずる一癖も二癖もある癇癪持ちのおじさんと愉快に山道を歌って歩く少女。牧歌的な光景、和やかなひと時、それが一変するのはおじさんの目的地は知的障害者施設で、娘に会いに来たことを表明してからだ。
    若い頃の香川照之を思わせるルックスの綾田將一(あやだしょういち)氏も見せてくれる。「不幸な子どもの生まれない運動」を推進する役所の人間役。ヒール的立ち位置ながら、誰よりも“善意”について真剣に思索する人物である。

    1970年に開催された大阪万博の名残り、岡本太郎の代表作「太陽の塔」。障害者施設近くの展望台から、それは神々しくも禍々しくも見下ろせる。
    知的障害者は果たして幸せなのか?一人の女性がノートに「死にたい」と書いて脱走する。

    オウム真理教の信徒で、学生時代障害者支援のボランティアをやっていた女性がいた。彼女は何でこんな生まれながらに苦しまなくてはならない子供達が存在するのかずっと思い悩んでいた。麻原彰晃の本を読んで「前世の宿業〈カルマ〉」と云う理論に納得し入信、やっとすっきりしたそうだ。このように、人間が思い悩むのは矛盾や不条理にはっきりとした解答を求めてのこと。嘘でも解答を得れば、もうそのことはどうでもよくなる。その女性も解答を得た事で障害者の苦しみは「自業自得」と楽になったのだろう。

    それぞれの“善意”が交通渋滞を起こし、考えれば考える程底なし沼の奥深くに嵌まり込んでしまう。答は一つではない。無数にありつつ、矛盾しながらもそれは共存していく。

    ネタバレBOX

    「夏の思い出」を想起させるオリジナルソングを作る大田康太郎氏。ハーモニカを吹き、娘が好きな歌謡曲を沢山覚えている。非常に知的障害者に理解のある男性に思わせながら、実際は自分の娘を愛しているだけで、他の連中の事なんか全く何の興味も持っていない。口汚く職員を罵り、トラブルを起こす他の入所者のせいで施設が閉鎖されることを恐れている。この圧倒的なリアル感、まさに人間だ。

    どうにもならない善人の悪業が淡々と綴られる。
    知的障害者が川に飛び込み自ら溺れ死ぬ光景に目を瞑った過去を持つ園長の告白。「太陽の塔」を巨大な鳥と準えて、その背中に乗って何処までも飛んで行く自分を夢想したヒロインの姉。生真面目な職員はそんな彼女を「何処にでも好きな所へ行ってしまえ」とわざと逃がす。
    知的障害者の姉のことが大嫌いだったヒロインは、昔二人で延々と繰り返した鬼ごっこを思い出す。姉を見付けて、背中をポンと叩くと彼女はにっこりと笑ったのだった。

    ヒロイン、役所の人間、癇癪持ちのおじさんの三人に焦点を絞った方が良かった。90分に人物を詰め込み過ぎで勿体無い。

    実話を基にした「スペシャルズ!」と云うヴァンサン・カッセル主演の仏映画がある。重度の自閉症児を社会不適合の若者達がケアする実在の団体の話。「こんな奴等と付き合ってられるか!」とキレて仕事を投げ出そうとする若者に主人公は言う。「今お前に職があり給料を貰えているのはこの子達がいるからだぞ」と。それは凄くこの世の真理を突いていた。

    タイトルのセンスが抜群。こうなると、「太陽の塔」に視覚的にもっと絡めて欲しい。

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    2021/10/29 00:17

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