藤田嗣治〜白い暗闇〜 公演情報 劇団印象-indian elephant-「藤田嗣治〜白い暗闇〜」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    藤田嗣治(間瀬英正)の、世に出たい野心と自己宣伝、画力、茶目っ気と憎めない可愛げがいい。フランス語もできない不遇の渡仏当初から、パリ画壇で認められ、帰国して戦争画で国民の喝采を浴びるまで。「北斎のような大波に飲み込まれる」様を現前する興味深い2時間10分だった。トレードマークのおかっぱ頭が、50代になると白髪交じりに、日米開戦後は刈り上げの73分けに、と髪型の変化で年齢と時代を描いていた。

    パリ時代は娼婦でモデルで恋人のナタリア(廣田明代)との出会いと別れを軸に、「乳白色の肌」誕生秘話(多分フィクション)も描く。
    パリの後輩日本人画家村中青次(泉正太郎)が、ニセ藤田を語っていい思いをするという展開は面白い。

    朝日新聞の記者住喜代志(二条正士)が「大衆は戦争を見たいんだ」と、藤田が「裸婦と猫の画家の自分には合わない」としぶるのに「ノモンハン事件」の絵を聖戦美術展に出品させる。藤田は時々現れる村中との対話で、戦争画で得る名声への期待と、自分が自分でなくなるような不安を示す。

    脇役たちも的確に選ばれた人物配置で、物語を膨らませていた。短期のパリ滞在で、控えめな和服女性からわがままな女優のように変わってしまう4度目の妻君代(山村芙梨乃)、絵が下手で下男のようにこき使われる「一番弟子」の山田秋平(片山仁彦)、戦争体制に批判的な、敗戦後は藤田の戦争協力の責任も「あったことをなかったコトにはできない」と指摘する多聞土郎=つちろう(小柄で活発な女優の杉林志保)。藤田の父嗣章(井上一馬)が軍医で、軍医総監にまでなったと走らなかった。
    人物相関図はこちら
    https://twitter.com/inzou/status/1452959920727355393/photo/2

    ネタバレBOX

    藤田の戦争「協力」をどう見るか。敗戦後、戦争責任を指摘する声や、手のひらを返したように冷たい画家たちに対し、「俺は画家だ」「(「アッツ島玉砕」で)誰もつかめなかった底知れない闇を俺は初めて掴んだんだ」と自分の絵への自負を語る。藤田の意識としては自分は画家として求めに応えただけというものだったろう。

    ちなみに帰国後の藤田のアトリエに、時々現れる村中は、藤田の分身である。そしてアトリエに銃剣を抱えた戦場の兵士たちが幻出する。

    藤田は「これが罪と言うなら、罪を見てくれ」と最後繰り返す。ここに作者の評価は凝縮されている。軍部から依頼を受け、戦時下の日本で評価された絵ではあるが、そうした歴史的文脈を超えて絵自体は「100年も1000年も残る」ものだと。たしかに絵自体を見ると、その力に圧倒される。単純に戦争美化、日本軍美化と言えないような気がしてくる(そこが絵のレトリックかもしれないのだが)。あらためて藤田嗣治は実に複雑な存在であることを考えさせられた

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    2021/10/28 09:29

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