実演鑑賞
満足度★★★★
シェイクスピア歴史劇らしい堂々とした朗誦セリフが耳に心地よい。吉田羊のブルータスの融通の効かない正義漢ぶりと、松本紀保のキャシアスの弱さと可愛さを醸す人情家ぶりが対照的である。特に二人が戦場のテントで諍う場面。
そうは言っても1番の見どころはやはりアントーニオ(松井玲奈)の「ブルータスは公明正大の人である」とクリア返して、次第に人身を反ブルータスに導く演説場面。最後の決め手として、シーザーが遺産分配を遺言していたと話が、民衆の歓心を買うためのばらまき政治はここにもあったかと感心した。
女性だけでどうなるかといと、男のようにギラギラしたり派手に激高したりということがない。けんかしても比較的落ち着いている。まあそういう演出のせいもあるだろうが、美しい、整然とした舞台という印象。
シェークスピアには珍しく、寄り道や副筋がほとんどなく、シーザー暗殺からブルータスの死まで一直線。もともとそういう戯曲である。テキストレジーでブルータス邸の謀議を縮めたり、フィリッポの戦いで敗れる最後の5幕を大胆に圧縮したので、それがいっそうきわだった。そのなかで、ブルータスの小姓ルーシアス(高丸えみり)が笛をふき居眠りする場面は、ホッと息が付いた。すぐシーザーの亡霊が出てくるのではあるが。
ブルータスの最初のセリフにヒントを得た、くすんだ鏡をいくつも組み合わせた背景装置が示唆的。2時間15分のコンパクトに収めた演出も良かった。