海底歩行者 公演情報 ぐうたららばい「海底歩行者」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ■約95分■
    子供を失った夫婦の話であることは、チラシを通じてあらかじめ観客に伝えられている。したがって、幼な子との幸せすぎる日々を掌編集形式で描いた前半を観れば、そのうちこの子はいなくなるんだ、夫婦はこれから愛児のいない日々を過ごすのだと考え、観客の胸は悲しさで張り裂けそうになる。子供を失ったと夫婦が気づく場面が、その悲しみに拍車をかけ、そこで幕切れとしてもいいぐらい。極言すれば、前半部分のみでこの劇は充分成立している。だが、それだけでは物語としての結構がつかないと考えたのか、後半では、子を失った夫婦の“その後”が、そして末路が描かれる。その“末路”について思うところは、ネタバレにて。
    愛児役を場面に応じてママ役の女性俳優が演じたり、パパ役の男性俳優が演じたりする演出が面白かった。

    ネタバレBOX

    舞台下手には金魚鉢が据えてあり、一家は金魚を飼っているという設定。これにちなみ、劇は金魚に擬した夫と妻がまるで追いかけっこでもするように舞台上を回遊するシーンで始まる。問題は、エンディング。同じく金魚に擬した夫婦がオープニング同様、連れ立って舞台上を回遊するのだが、二人は終始身を屈め、曲がった腰に手をあてがっている。二人が生涯添い遂げたことを暗示するこの幕切れには大きな違和感を覚えた。
    愛息子・柚(ゆう)君の死後、「柚君の所に行きたい!」と妻が夫に殺害を求めたり、夫が息子の生前から浮気していたことが発覚したり、夫婦の間には修羅場が相次ぎ、あげく妻は夫に離婚を提案。殺伐としたそれら一連のシーンを観ていると、とても二人が生涯一緒に居られそうには思えず、ラストが老夫婦となった二人の回遊シーンというのはどうしたって受け入れがたい。
    それよりは、長い暗転を間に挟んで回遊シーンの前に置かれた、“最後の旅”のくだりが終幕には相応しい。離婚前にもう一度だけ、と説得されて妻が夫と向かった先は、柚君をお腹に宿しての新婚旅行で、そして、無事生まれてきた柚君を交えての家族旅行で訪れた海辺の町。そこで海の上を走る柚君を見た夫婦は二人して海に飛び込んで柚君と再会し、三人で大気中をグングン上昇、やがて大気圏をも突破し、パパが「いつかみんなで(笑)」と柚君の生前に冗談めかして言っていた「宇宙旅行」を果たし、夫婦は声を限りに「柚く~ん!」と絶叫して喜びに震える。
    夫婦から柚君への果てしない愛情を描いた本作のラストには、柚君無しでは生きていけない夫婦による殉死とも言うべき入水自殺を暗示した、喜劇的でありながらもどこか切ないこのシーンが相応しい。

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    2021/10/21 13:45

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