解放区 公演情報 GROUP THEATRE「解放区」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    主張したいことは何となく分かるが、その対象となる現実が曖昧だ。タイトル「解放区」(理想郷と言うか理論の世界)を描くのであれば、もう少し具体的な現実の姿を表さないと、主張そのものに説得力が伴わず空虚な感じ。
    公演の魅力は迫力ある演技というか、叫び吐き出される「力ある言葉」、その台詞の激しい応酬だ。両手を広げて拾いたい珠玉の言葉だが、ぽろぽろと指の隙間から零れてしまう。物語は主人公・高橋ひろしサンの教え子である2人が登場してからの緊迫した場面と、それ以前のまったりした場面、その雰囲気がガラッと変わる。対置することでラストシーンへの効果として観せたかったのだろうが、前半と思われる場面が冗長すぎた。そもそも緊密に絡んできたのか。
    (上演時間1時間30分)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、廃屋といった感じで色々な物が散乱している。中でも重要になるのが、上手にある割れた姿見と下手にあるダンボールとビニールシートで覆われた塒(ねぐら)、と捨てられた本の山。演出として、客席の最前列中央に登場人物が着座し、後々舞台上の人物と話し出す。また役者は会場出入口も利用し、廃屋外に現実の存在を表す。この廃屋、後々知らされるが劇場跡という設定。
    照明ー冒頭は薄暗い廃墟イメージだが、人物が揃いだすと暖色的な色彩、そして圧巻は高橋さん演じる浮浪者にして元劇作家の慟哭シーンのスポットライト。
    音響ー生ヴァイオリンの演奏だが、演奏場所が割れた姿見の中という、自分(人間)という存在と(割れた)鏡という媒介を通して映る者、それは自分らしき者であって本人(実在)ではないことの象徴。対照させる演出としては巧い。打ち捨てられた鞄等を叩き、ストリートミュージックも反体制的な観せ聴かせる効果あり。散りばめられた反骨魂(材料)の数々。

     冒頭、ラストそして要所と思われる場面で北床宗太郎氏の生ヴァイオリン演奏。実に心象的で好かった。物語は、廃屋に岩崎紗也加サンが忍び込み、飛び跳ねたり、独り言を発している。実はこの場所に浮浪者らしき人物が寝起きしている。2人の会話から彼が相当な知識人であることが分かる。そこへ金を隠しに来た小池利一サンも交え、3人で脈絡のない会話が続く。ここまでのシーンが冗長のように思われた。この場所の立ち退きのため、作業員が立ち退き警告。そのうち浮浪者が有名な(元)劇作家で、代表作の受賞を辞退したことで、権威者(体制=現実)にたて突いた異端者扱い。浮浪者に取材と称して過去に経緯のあった記者と浮浪者の議論。端的に言えば現実の肯定(追認)か否定(抵抗)といった論争らしきもの。そして解体作業の轟音が…。
     切羽詰まった状況、スポットライトの中で浮浪者が現実の理不尽を訴える。その慟哭する姿が痛々しい。混合玉石の情報が氾濫(情報操作と攪乱)し思考・判断能力を奪う、受賞という名誉・恩恵で従順を育て批判を封じる、そして牢という獄に身体を拘束する、といった現実に抵抗する。まさしく革命的な行動であるが、その対象となっている現実とはどのようなものか。現実(問題)は一律には括れない。それを観客それぞれが社会に持っている不満や憤り、その想像力に委ねているかのようだ。敢えて言えば、岩崎さんの表現自由、小池さんの全て金といった台詞が残るだけ。現実の理不尽さが解放区側の一方的な主張として描かれているため、批判に説得力を持たない。もう少し物語の中に現実を描き込む必要があった。
     廃墟が劇場跡という設定が妙。劇場という虚構の世界を描く場所、その必要性は現実に疲れた精神(思考等)を解放する所。説明によれば、「ボロボロに朽ち果てた本、失われた言葉は飢えた子供のようにむさぼると、押し殺していた想像力は光よりも早いスピードで宇宙へ解き放たれ、従うだけであったはずの時間は心ゆくまで不規則に流れはじめる」、まさしく演劇の世界観そのもの。それを撤去することは?という問い掛けも感じる。しかし、暗転後のラストシーンは客席に座っていた男性会社員(2年目)が、モラル、コンプライアンスと言ったことが云々、という台詞で今までの緊張感がプッと切れた思いだ。これに抗議するのか。今まで観てきたのは幻想だったのだろうか?

    気になったのが、客席にいた役者。舞台上の役者との会話や強要された撮影によって、現実(社会)との繋がりを持たせる(媒介といった)重要な役どころ。しかし上演前から居るならまだしも、途中から入場し一般客前を横切って着座する。さも遅れてきた一般客を装っているようだが、観入っている本来の観客にしてみれば迷惑なこと。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/10/21 12:40

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