実演鑑賞
満足度★★★★
日曜の中目は何処もかしこも行列でコロナ騒ぎもすっかり終わったような賑やかさ。キンケロ・シアターの前にも大行列が見えて驚愕。それは隣で行われているモデルの大屋夏南さんのフリマだった。
傑作。成井豊作品は押し付けがましい感動と気恥ずかしい人間讃歌が嘘臭くていまいち好きになれなかった。(大して観ていないので失礼だが。)『劇場版ドラえもん』を小学生ではなく、大の大人が演っている感覚。新興宗教的“感動ポルノ”とは流石に言い過ぎだが。
だが今作は素直に面白い。兎に角話の進め方人物の紹介の仕方がスピーディーで、何を簡略化してどの情報をどの順番で提示するのかのセンスも冴えている。舞台美術も壮麗で、要のクロノス・ジョウンターのデザインの美しいこと、まるで原子炉のような。これが象徴するのは崇めるべき“神”であり、どうにもならない無慈悲な現実でもある。オープニング、鉄格子の重い扉がゆっくりと左右に開かれた時、“神”と人間との戦いが火蓋を切る。
深夜の科幻博物館に侵入者。社員の平田友貴氏が殴って捕まえ、館長の今出舞さんに報告。館長は警察を呼ぶ前にその男と話したいと言う。気絶していた男、南翔太氏はここに展示されているガラクタ機械、クロノス・ジョウンターを求めていた。二人はその理由を訊ねる。男が語り出すのは、誰にも信じて貰えない“時間”との壮大な戦いの話。いつしか二人はその話にのめり込んでゆく。
美人館長役、今出舞さんの最大の武器である滑舌の良い早口が炸裂。熊本弁の無骨な平田友貴氏の体育会系キャラとの相性も悪くない。この二人がずっと南翔太氏の回想話を袖で聴いている設定がいい。時に応援し、時に突っ込み、観客のガイドラインとしての役割を果たしてくれる。今出舞さんは本当に良い女優になっている。主演の南翔太氏の汗だくの熱演、好感が持てるキャラなので観客はその姿をずっと観ていられる。看護婦役の梅山涼さんは出てきた時、「この娘がヒロインだな」と勝手に思っていた程綺麗。後輩のプロボクサー役堀田怜央氏は畑山隆則っぽい肉付けでカッコイイ。妹役難波なうさんは強烈な芝居の味付けで作品にコクを齎す。架空の話には手触りの重力が必須。
クロノス・ジョウンターの設定も秀逸。タイムマシンとは根本的に違う。物質を過去に転送する装置なのだが、時間流の反発に遭って未来へと弾き飛ばされてしまう。過去から現在へは帰れないのだ。余りにも大きいそのリスク。主人公は中学時代からずっと片想いしていた女性の事故死を救う為、全てを捨てて装置を作動させる。