実演鑑賞
満足度★★★★
■約120分■
奇を衒った劇団名が引っ掛かって長年遠ざけてきたカンパニー。名前だけで毛嫌いしてきたこの団体の公演に私の足を運ばせたのは、ひとえにキャスティング。安川まり、小野寺ずる。この2名の名がチラシに載っていなければ、この団体の劇を観ることは生涯なかったかもしれない。そう考えると、キャスティングって重要。
内容は、大病院の入院病棟を舞台に描く、家族四態。ほぼ全編茨城弁ながら、茨城弁は口語でもあって、劇的言語を極力排したリアリズム志向の作風は、現代口語演劇を謳う青年団を彷彿させる。ただ、青年団の劇が“上演時間=劇世界での経過時間”なのに対し、回想が多用される本作は年単位の長い時間を扱っており、その分、各家族の物語が奥行きを伴って描かれる。
リアリズムを重んじたきめ細やかな脚本・演出は不安を抱える入院患者たちの心の襞、ひいては心配する家族と患者たちの関係の機微を緻密に描き、優しい家族に対する照れから本心とは裏腹なことを口走ったりする姿は入院中の身ではなくとも思い当たる節があって、胸がざわつくことたびたび。
それでも満点としなかったのは、時々起こる笑いの多くが茨城弁に、そして用松亮という役者に依存していると思えたから。笑いが好きで練りに練った笑いにこれまでたくさん触れてきただけに、標準語話者にとっては奇異で滑稽に感じられる地方イントネーションに大きく依存した安直な笑いに触れるとズルいと感じてしまう。一役者に過度に依存した笑いにも同様のことを感じてしまうのは私の度量が小さいせいか?
なお、このカンパニーが過去に上演した不条理小説の大家・カフカ原作の『変身』『城』などが本作同様リアリズム寄りの脚本・演出で上演されたのかは不明であり、リアリズム演劇というのが、あくまでも本作を観ての印象に過ぎないことを最後にお断りしておく。