ユートピア 公演情報 singing dog「ユートピア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    家族…一律には語れない内容、それを父親を悪者(実際いるだろう)に仕立て親・子の関係を切り口に描いた秀作。血の繋がり、子にしてみれば親は選べない。切り口を抉ってみれば憎悪の塊だったか?表層の面白さ、その奥にある味わい深いさに酔いしれた。

    俺が働いて食わしてやっているんだ、女房・子供は言うことを聞け。妻(家内)は、家の中だけのことをやっていればいいんだ!…そんな夫であり父の絶対的力、傲慢な思い、悲哀は後からついてくる。一方子供たちは、そんな父親の傲慢な態度に辟易し憎んでさえいた。本作は父親の独善的な考えを前面に出し、それに対する子供視点で描いている。子の憎まれ口を通して父親像を浮かび上がらせる。同時に父親の思(重)いも付いてくる。
    シンプルなセット、キャスト5人という少数ながら、家族 特に父という家庭内の独裁者とどう向き合うかを体現。たしかに「少しだけ温かくコミカルでそれでいて胸に刺さる」見事な作品だ。
    この父親を反面教師にしようかな、あっ時すでに遅しか。

    (上演時間1時間40分)

    ネタバレBOX

    セットは、中央に卓袱台もしくはテーブルに見立てた台のみ。家族は父、兄・姉、そして物語をリードする自分(次男)、母はすでに鬼籍。自分が小学3年生、夏休みの伊豆高原での回想から物語は始まる。父親の言うことは絶対服従、その象徴がトランプのババ抜き。
    父曰く、一流大学を卒業し大企業へ入社、そして安定した生活を営むこと。自分の言うことを聞いていれば間違いない。子供たちは息詰まる生活、その抑圧された家を早く出て自活したかった。

    父が癌で入院・手術という事態になって久しぶりに兄姉弟が集まる。従順だった兄、姉は何となくすり抜け、自分は父の叱責を一身に負った。そんな兄姉、そして自分も変わっていた。従順だった兄も一流企業に入ったはいいが、ノルマに追われ、妻とは離婚協議中。姉は離婚し、年下男と同棲中。自分は転職を繰り返し不安定な生活。

    物語は父親の威圧さを強調して描いているが、当日パンフに「その人が構築されるまでには、家族の影響が多分にある」と。父親は貧しい家庭に育ったこともあり、早く家を持ち自分なりの家庭を築きたかった。セット卓袱台の上に立ち君臨する姿は、家をイメージさせる。冒頭の伊豆高原は会社の保養所、自分なりに家庭サービスもしていたつもり。自分の思いと妻や子供の意識、そのギャップを生み出し気がつかない。これは悲劇なのか、それとも「家族」という名の喜劇なのか?

    演技はそれぞれのキャラクターをしっかり立ち上げ、バランスも良い。特筆するとすれば、1人2役(姉と母)を演じた内海詩野さん。目元が母に似ているという台詞をきっかけに、それぞれの役の表情を演じ分ける。動作(母=家内は卓袱台内だけの動き、姉は卓袱台も含めその周りを動く)も実に自然体だ。
    亡き母へのプロポーズの言葉、「幸せに出来るかは判らないが、苦労はかけない。」に困惑の笑み。ちなみに漫画、映画化された「釣りバカ日誌」の浜ちゃんのプロポーズは「君を幸せにする自信はないが、ボクが幸せになる自信がある」だ。プロポーズに込めた思いが真逆の結果になるが、そう簡単に思いは通じないということか。
    さて、この構築された家族の行く末が気になるのだが…。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2021/10/05 12:39

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