実演鑑賞
満足度★★★★
良いシナリオだ。板垣雄亮(ゆうすけ)氏演ずる父親が強烈。独裁者であり、絶対的な支配者。”家族“を司る教祖であり、その根幹となる造物主。『血と骨』や『モスキート・コースト』、父親版『愛を乞うひと』でもある。前半は観ているだけで死にたくなる程苛烈。思い当たる節がある人にとっては観ちゃいられない地獄絵図。この父親が象徴するものが、人間を苦しめている諸悪の根源なのではないかとさえ。ババ抜きでそれを表現するテクニック。
三人兄妹の末っ子の述懐から始まる。父親への呪詛、その父親に追従した兄への憎悪、惨めな奴隷としての生涯を終えた母親への無念。母の死から家を出、もう二度と父と会うつもりもなかった。そこに父親が癌で倒れ、緊急手術で危篤状態の知らせが来る。長らく家を離れていた長男、長女、次男が実家に何年振りかに集まる。
板垣氏は兇悪な呉智英と云う感じ。何を言っても話が成立しない人間の典型。そのモンスターに対抗する対となる存在、内海詩野(うつみしの)さんも凄まじかった。母親と次女、叔母さん役もこなす。五人芝居で今作を演らせる劇団の要求も恐ろしい。内海さんの瞬間的な表情の変化がこの作品に緩急をつけている。次女の同棲相手である坂井宏充(ひろみつ)氏もギスギスした話を中和する重要なキャラ。三人兄妹の怨念の中立な聞き役でもある。
落花生(ピーナッツ)を三人がひたすら食べながら会話をするのだが本当にかなりの量を食べている。矢鱈とそれが気になる。物語は三人の父親に対するトラウマ話の回想から、何故かそれを聴いている父親の魂へと視点は移っていく。
設定は有りがちだが、真摯に取っ組み合った作家の魂の彷徨を是非とも体験すべき。