実演鑑賞
満足度★★★★★
#ユートピア
#singing dog
誰もが家族への思いを抱いている。幸せな家族。辛い家族。苦しい家族。そして……家族を知らない孤児であっても。作品を観ながら思考の旅に出る。大概はそうした邪念が鑑賞の邪魔をするのだけれど、不思議と物語から脱落しない。余分なことのない、違和感のない、#藤崎麻里 さんの強固な脚本がなせる技。
君臨する独裁者。勿論そこには愛情がある。それでも大きな力は歪みを生む。その姿は、一瞬にして我が父を思い起こさせる。認知症を患い施設にいて、この感染症の世界で20ヶ月も会っていない独裁者を。わたしは反抗し続けたハミ出し者。けれども、最後の手綱は断ち切れなかった。表面では戦ってみても、飛び立てなかった。コントロールされていた。その呪縛は解かれることがない。
施設に入る前の最後の会話は何だったろう。毎回激昂し詰り合い
「殺してやる」
「嗚呼、やってみろ」
そんなモノだったろう。保護された警察署に1時間もかけて迎えに行って、署で怒鳴りあった深夜1時。
母が他界したことを忘れてしまう独裁者は、毎朝その"死"に驚き悲しんでいたことだけは哀れに思った。
ワンシチュエーションの会話劇。中央にあるチャブ台は不落の牙城。拠り所にも監獄にも見える見事な演出を #吉田康一 さんが施した。独裁者の回顧で、スッと背筋を伸ばして横に座った #内海詩野 さんの美しさは絵画のようで、演出家の最大の功績ではなかろうか。
BGMは演出家の片腕 #山口紘 さん。今作では音の存在を忘れるほどに、そっと自然に作品に寄り添った。終盤の心地良いリズムで、その存在に気付いてハッとした。
総じて派手さのない物語なのだけれど、なんだか演劇の魅力が詰まっているように感じる良作だった。