SENSE 公演情報 早稲田大学舞台美術研究会「SENSE」の観てきた!クチコミとコメント

  • 映像鑑賞

    満足度★★★★★

    「SENSE」早稲田大学舞台美術研究会 2021.9.16 配信を拝見
     5度目の正直! 配信なので受信する側の器機の性能によって全然音質が異なり4回目迄は、PCのスピーカー音量を如何に調整しても台詞が殆ど聞き取れず、イヤホンを用いても結果は同じで途中で投げ出さざるを得なかったのだが、偶々別のイヤホンで聞いてみると可成りよく台詞を聴き取ることができ作品を楽しむことができた。通常版(1h18m47s)と楽ステSP版(1h22m51s)版の2種が配信されており、楽ステ版の方が音声は聴き取り易いが、こちらは天井の照明器具迄映り込んでいる。尚5度目迄は総て通常版を拝見していた。

    ネタバレBOX


     舞台美術研究会の作品らしく随所に仕掛け(2次元から3次元への通路は都合5カ所等)が施され効果的に用いられているし、ホリゾントのセンターに2次元から3次元へ通じる扉が設けられ、その下手に3次元での出入り口が設けられているのだが、このセンスもグー。殊に作中描かれた漫画「空を青に」の主人公・蒼穹(そら)が2次元から3次元へ飛び出すシーンは圧巻である。
     台詞が聞こえさえすれば脚本も良い出来だ。ザックリ言うと創造ポテンシャルは高いもののその才能が未開化の若手漫画家・ムラタが、己のセンスを見極め成長する過程を描いた秀作だ。
     秀作の秀作たる所以は、今作が若者の成長譚であると同時に成長の過程が作品創造の過程・創作方法及び能力の開花・進展と重なりあって展開する点だ。この傾向は終盤に使われる小道具・五十音表の使い方にも表れている。つまりそれ迄の話の展開をも下敷きにして各所作が振りつけられ、ラストにパズルを解くような明快さで連なっているのだ。而も最後のチャンスを与えてくれた担当編集者・カオルが沖縄出身乃至ファンらしいこと、沖縄がヤマトンチュから押し付けられている不条理に対して沖縄の宝、即ち青い海、青い空、そして沖縄の人々の心で応じることを示唆したラストも優しさに満ちている。
     物語が進展するのは、有名な漫画家を輩出してきた出版社・編集部。ここには連載漫画家のアトリエも併設されており、若手有望漫画家が各々のデスクで作品を描き覇を競っている。世間では、このアトリエ併設の編集部を‟ときわ荘“に準えることも流行っている。殊にときわ荘に準えれば手塚治と評される人気漫画家・ヒナタは無論、巷の評価もダントツであるが、彼が光るものを持っていると紹介し連載を任されることになった今作の主人公・ムラタは、元ネタを知らずに似たような作品を立て続けに発表してしまったことでパクりばかりやっている奴、読む価値無し等の酷評を受けるハメに陥りカド番に立たされている。
     というのも、新たに才能のある新人・ナオトが発掘されポストムラタの刺客として送り込まれてきたのである。既に外堀のみならず、内堀迄埋められ絶体絶命の危機を迎えたムラタは、担当編集者のたっての頼みで首の皮一枚でラストチャンスを得る。このチャンスを活かす条件は、3日後の朝ムラタの弱点であるネーム(つまりストーリー)が完成稿として提出できること。それが通れば直後にストーリーや登場人物の絵柄のみならず背景の細部まで目配りの利いた完成稿を仕上げることだ。この極限的危機の中で、主人公はドッペルゲンガーにでも出会うかのように己の創作した登場人物達とリアルな遭遇体験を過ごし、彼らと協働で作品を創り上げてゆく。「空を青に」の主人公、小説家を目指す碧木蒼穹(あおきそら)、ロックミュージシャン、シェフ、占い師、事件に鼻の利く名探偵ら5人の登場人物と共に殆ど徹夜の3日後出来上がった作品は、そのストーリーを読んだヒナタもナオトも絶賛する傑作であった。
     蛇足だが、創造されたキャラクターの数が5人なのは無論視聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5感を象徴しており、ムラタは所謂創作者の神の位置を占めて居ることは容易に見て取れよう。この辺りの作り方も創作の王道に則っている。またタイトルのSENSEは多様な意味を持つ単語だから、各々の意味を噛みしめながら観劇して欲しい作品である。
    注:各登場人物の氏名表記に関してはパンフがある訳では無いようなので、表音文字を用いるかハンダラが作品から受けた印象を基にイメージした漢字を用いて表記した。

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    2021/09/17 21:11

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