朧な処で、徐に。 公演情報 TOKYOハンバーグ「朧な処で、徐に。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い。今作を観ようと思った自分を褒めてあげたい。タイトルがタイトルなので、『群像』とかの中身のないだらだらした純文学を連想しがちだが、非常に秀逸なメタフィクション。筒井康隆の「朝のガスパール」やウディ・アレンの「地球は女で回ってる」が大好物な方にお勧め。
    スランプ気味の劇作家が、締切を迫られてああでもないこうでもないと創作に苦しむ。作中の登場人物達がコロコロ変わる作者の態度に怒り心頭、「私の作品をきちんと書け!」と次元を越えてクレームをつける。同時進行で主人公は女優時代の恩師だった厳しい俳優が数ヶ月前に孤独死していたことを知る。今、日本で日常的に多発する孤独死、それを我が事として真摯に向き合おうとする人々の群像劇でもある。

    主演の劇作家役、宮越麻里杏さんが素晴らしい。眼鏡を外した途端に若返り、ギラギラした女優時代の顔に様変わり。小道具なし、一瞬のその凄みは圧倒的。
    孤独死したかつての先輩俳優役、堂下勝気(どのしたかつき)氏は即座に場を締めてみせる。ピリピリした空気感で劇場を張り詰めさせ、「まったく役者なんかになるもんじゃねえな」と観客に染み染み思わせてくれる。
    喫茶店のマスターの娘役、中村ひよりさんも目を惹く。人物像がリアルで遣り取りも台詞も嘘臭くない。何かそれっぽいキャラの人情物語に辟易しているので好感。
    劇中劇の登場人物の四人も最高だった。橘麦さん、槌谷絵図芽さんの、大手スーパーが配送を始めたせいで潰れそうになる姉妹二人だけの地方の運送会社の話。
    北澤小枝子さん、岡田篤弥氏の、飛び降り自殺に来たら偶然出くわしてしまった見知らぬ二人の話。
    本当に驚く程面白いので、予定が空いている方は是非観てみて欲しい。

    ネタバレBOX

    昔、沢木耕太郎のルポルタージュ集『人の砂漠』の「おばあさんが死んだ」を読んで衝撃を憶えた筈だが、今そんなニュースを耳にしても何とも思わなくなった。矢張り、他人の不幸なんかはどうでもいいのだ。
    だが、宇鉄菊三氏演ずる喫茶店のマスターはそうではなかった。孤独な人々の交流の場を立ち上げようと画策。孤独死の本質的な問題と何とかして向き合おうと一人奮闘する。答のない問い掛けは、敢えて答を求めないことで、運動体であるそのこと自体に意味が生まれる。ひたすらに考え続ける事、その行為が答えになり得るのだ。

    劇作家は本当に書きたいことを書く為に、孤独死について実地取材に入る。孤独死した先輩俳優に生前会えたとして、自分は一体何が言えただろうか?
    本当はラスト、時空を越えて二人が対峙するシーンが観たかった。ゴミ部屋で死にゆく老人の枕元に正座し、何も語るべき言葉が見つからない絵が欲しかった。
    特殊清掃員のシーンはもっとリアルに目を背ける位にやってもよかったのでは?

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    2021/09/14 23:50

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