実演鑑賞
満足度★★★★
翼賛選挙で非翼賛議員への選挙妨害の訴えを認めて、1945年3月に選挙無効、やり直しの大審院判決を出した吉田久の物語。裁判所と、吉田の家と、鹿児島の出張尋問の場面で構成。東條英機が音頭を取る翼賛選挙に、異議を挟もうという吉田に、さまざまな嫌がらせがくる。息子には赤紙、本人には尾行監視、家は「非国民」と攻撃され、家族は配給でも差別を受ける。
5人の裁判官の合議内容など不明な点が多い史実を、ドラマチックに脚色して、大変感動的な心に響く舞台だった。
保身のため選挙有効を主張した陪審判事が、妻に「今の姿を息子に見せられますか」私たちができるのは、病気と戦う息子に「希望を教えること。私は息子には希望を教わったんです。今度は私たちの番です」と言われて、自らを振り返る。
(竹内一郎の盟友平石耕一の「センポ・スギハアラ」にも、子どもに親の生き方を示すという場面があった)
「青臭い理想」にいつまでしがみつくんだ、というセリフがあるが、吉田の青臭さを恐れずに、堂々と貫く姿が胸に染みる。希望と、理想が、巨大な力の理不尽に屈しない。
雑用係から苦学して判事になった吉田の、「法律とは、弱いものに希望を与えるものだ」という言葉が胸を打った。
吉田役の川口啓史が、ゆっくりとあわてない静かな演技で、信念の人を好演していた