歌姫・ネバーダイ! in deep 公演情報 ライオン・パーマ「歌姫・ネバーダイ! in deep」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    主人公の女性の生き様を瑞々しく、そして切なく描いた物語。それは、小説の連作集のように時代と登場人物を変えながら、人生の荒波風景をカンバスに、まるで歳時記のように描き展開していく。

    西暦2118年から始まる終わらない話。主人公の名前は、千年語り継がれる歌手になってほしいと名付けられた「千歌」。人の生と死を見守り看取りつつ、自分の運命と向き合い全うするかのような力強さ。公演の雰囲気は、けっして重たくなく、どちらかと言えば抒情的なように思える。
    彼女の旅は悠久の流れ。そう考えたら上演時間2時間30分(休憩5分)なんて…。

    本公演は第33回池袋演劇祭参加作品のため、2021.10.10日付で追記

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央奥に手摺がある御立ち台のようなものだけ。シンプルであるが、物語の展開によって場面が変化することから固定しない。観客の意識を自由にしておくためにも上手い。
    冒頭は滝村家の日常の朝、父親が玩具のようなタイムマシン(ポータブルカラオケ付)を作り、遊び心で設定した年代の国へタイムトラベルした長女・千歌(春木彩香サン)が、辿る年月と場所をオムニバス的に描く。ただ彼女の悠久の旅の途中での出来事をトピックのように挿入しており、大きな時の流れの中にある。彼女にとっては平穏から激動へ、その急変な運命も淡々と受け入れ、何とか我が家への帰還に尽くす。

    彼女の持ち物はタイムマシン(カラオケ)と世界史の教科書。
    最初のトラベル…年と場所は1790年のフランス。そこで不思議な森、神秘な湖(人魚伝説)がある場所で、不老不死の肉を食したことから、数奇な運命を永遠に背負うことになる。もちろんナポレオンが台頭していることから彼とも会う。1811年戦火の欧州、ある病院で働いている。死期が近い病院長との滋味あふれる会話。ベットが中央におかれ、生きることの素晴らしさ、そして娘やその婿になるであろう副院長への温かな眼差し。1847年騙されて海賊船内、寄港した所で女奴隷競り市。競り市での光景は、一見非情のように見えるが、女1人ひとりに見せる細やかな心遣いが仄々と描かれる。それから漫画ワンピースのモデルになった海賊との出会い。約束を交わして…。彼は言う。「千歌は未来から来たんなら俺の最期は知っているんだろう」、その返答が秀逸。「教科書(表舞台)には載っていないが、別の形で人気者になっている」と。
    そして あろうことか2178年に。終わりのない旅、その行く末が気になるところだが、もう1人不老不死の肉を食した人物との邂逅が…。

    物語は抒情的な印象であるが、挿話はその時と場所で完結し、夫々に強い関連付けを見せない。時は流れているが、その時・場所はその場限りという骨太で非情な描き。演出はコミカルで観せるといった印象であるが、奥には、生を見て死を看取る、人身売買にみる思い遣り、正史でなくても生きた証を伝える、何かに括ることはせず、色々なテーマを散りばめながら「生きる」ということを心象づける秀作。

    不老不死であるがゆえに、自分以外の人生を見つめ続けなければいけない悲しみ、いや恐怖に近い。永遠に歌うことを許された歌姫の無駄な時間…千歌の春木彩香さんの伸びやかで張りのある歌声が要所々々で聴かれ、癒される励まされる。歌う彼女を優しく照らし出した姿はミューズそのもの。照明も実に効果的だ。
    また時と場所そして描く内容が異なるが、役者は1人何役も担うが、違和感なく感情移入できる力技。見事であった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/09/12 12:20

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