戒厳令 公演情報 劇団俳優座「戒厳令」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ペストとコロナとナチスとデスノートを合わせたような舞台である。最初はメタファーが多くて、何を指しているのか錯綜した。しかしペスト(ナチス)と青年(レジスタンス)の対決のクライマックスはすごい緊迫感で圧倒された。

    ペストを名乗る新支配者と、その女性秘書が住民登録する場面は、市民の「私生活」に介入し思想と素行で選別をする怖さがある。青年が助けを求めた婚約者の父は「犯罪も法律になれば、もう犯罪ではない」と「悪法も法だ」と、権力者の作る秩序に従順に従う、普通の人々の生態を写す。そして、青年とペストの対決。見応え充分の芝居だった。

    ペスト役の野々山貴之がすばらしかった。白塗りで終始民衆を小馬鹿にし、バットマンのジョーカーのような、ちょっと別世界の存在感。女性秘書の清水直子が支配の虚しさを示し、青年医師の志村史人が正義の苦しさで迫力があった。志村は「インク」の編集長役に続く主演、ぜんぜん違う役柄を好演していた。保守的民衆の代表の加藤佳男は自然体に宿る貫禄があった。

    工事現場の足場のような2台の可動階段と2階廊下のセット。液晶画面を4台おいただけで、映像で場面を示すストイックな美術。上下の位置関係と、狭いアトリエを走り回る動きで、熱気と緊張感のある舞台を作った演出が素晴らしかった。志村はシャツが汗でびっしょりになるほどの熱演だった。

    ネタバレBOX

    青年が怒りにかられて恐怖を忘れたとき、ペストは治る。女性秘書から「恐怖を克服して、反抗するものが一人でも現れたら、彼らは打つ手がない」と教えられ、人々を導いて革命へ。立ち上がる民衆、権力との戦いを描くカミュはさすが左翼作家だ。

    ペストの示した取引の場面は、いかにも「アンガージュマン」のサルトルと並ぶ実存主義作家らしい。その試練を乗り越え、青年は我が身を犠牲に、人々の自由を勝ち取る。

    しかし、ペストは去り際に語る、「時がたって、すべての犠牲は無駄だったと思うとき、私の支配は完成するのだ」と。これはカミュの恐ろしい予言だ。若い日に理想に燃えた人々が、年を取って「あれは若気の至りさ」と、現状に満足するとき、体制は延命する。それが今の日本だ。酔っ払いのナダが「無駄死にさ」というのに、反論する人が数人いたとしても。

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    2021/09/08 23:13

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