カノン【8月19日~31日公演中止】 公演情報 東京芸術劇場「カノン【8月19日~31日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    演出、出演の野上絹代さん、連想するのは野上照代(黒澤映画の名物スクリプター)。名前が出る度気になっていた。
    開演前SEからザッピングされたTV番組の音声が流れ続ける。多重世界のザッピングの中の一コマが今回の物語のようだ。額縁による美術を徹底し、小道具は全て額縁の中の絵。額縁がありとあらゆる形を表現し、時には弓となって矢を射る。ひたすら疾走するスピード感で物語は駆け抜けていく。
    中盤、ヨハン・パッヘルベル作曲の名曲「カノン」がハイテンポで流れ、舞台は更に盛り上がる。が、それも束の間、捻れた音階、不協和音のノイズ、不安を煽るインダストリアル・ミュージックへとぐずぐずに崩れ世界の様相は変貌を遂げて行く。カノンとは特殊な輪唱の意味。

    盗賊団の御頭、沙金(しゃきん)役さとうほなみさんがヴァンプ(妖婦)として完璧な存在。胸の谷間を見せ付ける演出で盗賊団も観客も骨抜きのメロメロ。「ゲスの極み乙女。」のドラマーと云うことに驚く。多分グラビアアイドルだと思っていた。何となく情報は知ってはいたのだが···。矢庭に白い脚をゆっくりと伸ばし、男に委ねる。誰も彼もが理性を失い、本能的にむしゃぶりつく。それを勝ち誇った顔で眺め、にんまりと口元を歪める淫婦の貫禄。
    主演の太郎役中島広稀(ひろき)氏はた組の『貴方なら生き残れるわ』に続き舞台はニ回目。遠く、彩の国さいたま芸術劇場まで観に行ったものだ。バスケ部の一人だったような。運動神経、反射神経が物を言う舞台向きの俳優。
    猫役、名児耶(なごや)ゆりさんも印象的。モノローグを兼ねつつ、作品の核に触れている存在。余りにも謎が多過ぎる。

    平安時代、自由を謳歌していた山の民は都の民に侵略され滅ぼされる。生き延びた残党共は盗賊団となって京の都を荒らし回っている。都の最高権力者である天麩羅判官(渡辺いっけい氏)の屋敷で牢番をしている太郎は、美しき囚人沙金に惑わされ逃がしてしまう。太郎を赦免した判官はスパイとなって盗賊団に潜入し、反体制組織「猫の瞳」について調査するよう命ずる。
    判官屋敷に隠された、フランス7月革命を描いたドラクロワの名画「民衆を導く自由の女神」が物語のキーになる。

    ネタバレBOX

    猫の存在が謎で、劇中太郎が唐突に言う台詞、「彼女は猫と呼ばれているだけで本当は人間なのだから」にハッとする。ただ、その後はまた猫として存在し続ける。あれは一体何だったのか?そこが一番興奮するシーンだった。

    クライマックス、鉄球と銃で連合赤軍のあさま山荘を連想させるが、この物語との関連性が全く見えない。野田秀樹作品お馴染みの「実はこんな意図がありました」を喜ぶのは批評家だけではないか?虚構に耽溺していた観客からすれば、「そんなことはいいからこの話をきちんと語れ!」との思い。
    素晴らしい虚構作品に「実はこういう意図があった」なら興奮もするが、毎回話の途中で誤魔化しているような気にもなる。(好みの問題だろうが)。

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    2021/09/07 07:53

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