ムサシ 公演情報 ホリプロ「ムサシ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    渋谷の初日観劇。コロナの憂鬱を吹き飛ばすような満員の客席。初演からほとんど変わらない座組で、主演級の俳優が綺羅星のように並ぶ舞台。圧巻の三時間だった。今回、沢庵和尚役が塚本幸男に交代。初演で演じた辻萬長さんは8月になくなり、カーテンコールでは、井上ひさし、蜷川幸雄とともに、辻さんの遺影もキャストがもって現れた。芝居のメッセージそのままに、死者から生者へとバトンタッチしながら公演を重ねる。初演から12年、まさに一種のロングラン公演になりつつある。

    この舞台は見るたびに違う側面に気づかされるが、吉田鋼太郎の色気と茶目っ気たっぷりの演技が目を引いた。魅力はセリフだけでない、四場「狸」の、仇討のための剣術稽古とその後の決闘は、身体表現としてダンスのようで面白い。また、白石加代子の見せ場は、初演では二場の「蛸」の能にびっくり仰天したが、もうひとつ、5場の「鏡」はそれ以上の長セリフ(身の上話)と見せ場になっていることも発見した。

    そういえば、音楽も尺八と拍子木を使った、冒頭の純和風から、ついで竹やぶに寺が出現するところはアンサンブルのテーマ曲と、いろいろ趣向を凝らす。討ち入りそのほか、ざわざわする場面では、舞台じゅうの竹やぶが揺れるのも効果万点。

    ネタバレBOX


    「年をとったものはそれだけ、冥土に近いのだから、その話は聞いておくものだ」というせりふは、実は皆冥土の住人として、最後の訴えを聞いて欲しいというラストの伏線になっている。筆屋乙女(鈴木杏)たちが仇討ち前に、「成仏できずに、この世をさまよい続けるのは嫌。平心様は残って、私たちを弔ってください」とみなで必死にすがりつつ念仏を唱えるのも、ラストの「成仏させてください」と見事に重なる伏線。ただ、その場では「葬式はまだ早い」とギャグで終わるので、伏線とは気づかないのもうまい。

    ラストは知っていても、見ていて心にグッとくる。「おふたりがお命を大切になさることで、私たちを成仏させてください」と、俳優たちが白装束で必死にすがると、迫力がある。「成仏を、成仏を、成仏を!」という願いの迫力は、文字だけとは、全然違うところだ。

    四場の最後、塚本・沢庵和尚が「大事な宝物が…宝物が…」と、セリフが飛んだらしく言いよどんでいると、吉田・柳生宗矩が「よくわからんが、言いたいことはなんとなく分かるぞ」とカバーして、客席、大爆笑だった。機転を利かした絶妙な受けであった。

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    2021/09/03 09:18

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