ダンス×人形劇「ひなたと月の姫」 公演情報 日生劇場「ダンス×人形劇「ひなたと月の姫」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    第一幕40分休憩20分第二幕50分。
    凄く面白い。これを子供向けに収めてたったの全四回公演とはかなり勿体無い。いつか高畑勲追悼版として加筆して貰い、究極の『かぐや姫』が観てみたい。
    銀色の巨大な半球が中空に浮かび、竹林をイメージしたような縦一面に組み合わされた真白な竹が複数左右にスライド。シーンごとにアイディア満載の演出。
    ギター&パーカッション&ヴァイオリン+笛などで構成された生演奏のトリオが素晴らしく、ボサノヴァ調に時にはバート・バカラックを思わせる名演で場のムードを醸成。
    人として演じるのは四人だけで、後は人形劇団ひとみ座の人形の操演とパフォーマーのコンテンポラリーダンス。これがまた女優は綺麗どころ揃いで肉体美を誇る男性陣といい豪華キャスト、隙がない。

    主演のひなた役辻田暁さんの躍動。彼女の圧倒的舞踏を観ているとブルース・リーの言葉を思い出す。「鍛錬を積み重ねて新たな能力を手に入れる訳ではなく、本来生まれ持った自分自身になるのだ。」と語る。肉体に施された束縛を年月をかけて一つ一つ解いていき、自分自身のあるがままの肉体を手に入れる作業。自由な彼女の表現に人は皆本能的な憧れを持つ。
    人形かぐやを操演するのは松本美里さん。声が美しく、卵から大人まで自在に演じ分けた。右腕を人形の胴体に差し入れ、左腕を人形の左腕に。両手の演技が必要な時には黒子がもう一人入って右腕を操演。等身大の人形操演の高度なこと。
    かんた役の大宮大奨(だいすけ)氏も好演。オババ役の田根楽子さんも笑いで彩った。

    かぐやは竹の中から金色の喋る卵として現れ、尻尾の生えた怪獣として育つ。他に類を見ない異色の設定で話の展開が読めない。村祭りの総出のダンスは美しい生命力に満ち溢れていた。

    ネタバレBOX

    かぐやは山賊に尻尾を斬られたことで人間の少女にメタモルフォーゼ。すぐに金髪の美しい女性(『アナ雪』のエルザ調)へと変貌していく。山賊の襲撃から逃れる為、四人は都へ上る。
    都に行くまでがオリジナルで、その後はいつもの『かぐや姫』、五人の求婚者に五つの無理難題。
    ひなたが主人公なのは村パート、第二幕では殆ど見せ場がなく、そこがかなり残念。主人公としてかぐやのキャラ設定では出来ないことの全てをやらせるべきであった。

    内田吐夢の幻のアニメ映画企画、『竹取物語』。当時無名の新人高畑勲が出した企画案はボツに。罰として地球に落とされた月の姫かぐや、彼女は一体何の罪を犯したのか?がテーマであった。これは後に氏の遺作、『かぐや姫の物語』として結実、日の目を見る。観れば判るが途轍もない傑作。
    原始仏教の説く教え、一切の執着を捨て苦しみのない境涯に辿り着いた者達が住む世界として月を設定。快楽と苦しみは表裏一体の同じものであることから、月の世からそのどちらをも捨て去ってしまう。かぐやは月から地球を眺めて人の世に憧れると云う罪を犯す。
    原作版ナウシカの名台詞「いのちは闇の中のまたたく光だ!!」に象徴されるように、宮崎駿高畑勲の思想はゴータマ・シッダッタ(所謂釈迦)に否を唱える。ここは宮沢賢治に繋がる部分でもあるのだが、実生活を見据えていない高邁な思想に本能的に欺瞞を感じるのだろう。どちらが正しいとかではなく、人の生き方の違い。

    今作ではかぐやは月に帰るが「必ず戻って来る」とひなたに言い残す。数年後かんたとの間に産まれた子供を抱くひなた。「顔を見た瞬間に分かったよ。この星にようこそ、かぐや。」

    辻田暁さん恒例の『ピノッキオ』も今年限り。余りにも勿体無いので凄い作品を新たに制作して下さい。

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    2021/08/01 20:30

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