風吹く街の短篇集 第五章 公演情報 グッドディスタンス「風吹く街の短篇集 第五章」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「朝、私は寝るよ」…珠玉作。

    不倫している男と女のチグハグな言葉、あえて真面目な会話をしたくない微妙な心理が透けて見える。舞台となる(彼女の)部屋をそっと覗き、上品?な痴話喧嘩を楽しんで観ている気分。しかし、まぁ男と女の立場というか身勝手さが露骨に表れ、それが何故か共感し会場内にクスッという失笑が漏れる。
    男が取り繕う自分よがりの必死な姿、それを眺める女の醒めた表情、その対比が絶妙だ。そもそも男は何の話があって彼女の部屋に来たのか、といったところは寝ているような。
    公演の魅力は、脚本(設定はありふれているが台詞が面白い)の力、演出の巧みさ、そしてそれらを体現する役者の演技力が素晴らしい。男(綱島郷太郎サン)の身勝手、情けなさといった二面性、女(今泉舞サン)のチャーミングで魅惑、そして哀愁漂う二面性、その表現力が公演を支えている。
    (上演時間55分)

    ネタバレBOX

    説明にあったほぼ素舞台ではなく(スルーする)、しっかりセットがある。客席はL字型、両側から見やすいような配置で女の部屋…ベット、テーブル、TV、扇風機等が置かれ、奥にカーテンが掛けられた窓。
    その彼女の部屋にビニール袋(たこ焼きパック)を提げた男が来る。もちろん女の不倫相手である。私服であるから休日であろう。

    本題の会話劇に入るまでの導入が巧みだ。女はTVでオリンピック陸上競技を見ているようだ(画面が見えない位置の席)。男に走るのが早かったかを聞き、それを証明して見せろとせがむ。狭い室内で証明することが難しいため、男は前言を撤回し遅いと言い出す。男は面倒になるとコロコロ意思・態度を変えるが、女はしつこく理由を追求する。冒頭で男と女の性格をそれとなく分からせる。

    不倫している男女、そして男の妻が意識不明の重体。その原因は夫の浮気で自殺未遂か不慮の交通事故か。原因如何で男の気持の在りようが違う。浮気が原因だと一生負い目(不倫=罪の意識)を持ち続けなければならないが、事故なら自分のせいではない、という責任から逃れられる。女は男の妻を尾行しており、その原因を知っている。好きな男の妻がどんな女か知りたいという気持、その健(勝)気さと行動力に女の可愛げが見える。と同時に女の怖さも垣間見える。一方、男はその結果を知りたいと土下座(そのわりには、居眠り)、その身勝手さが浮き彫りになる。心裏の駆け引き、会話がどこに辿り着くのか、その漂流するさまをワクワク ニヤニヤしながら見守る楽しさ。不倫している男と女の不幸は蜜の味のようだ。

    男は困ると、キスし押し倒す行動に出るという、ありがちな展開_だからベットがあるのだが、このベットは別の意味_ラストシーンのためにも重要だ。女は、先ほどまで男に意味ありげな態度をとっていたが、男が部屋を去ると急に寂寥というか憂愁ある表情になる。そして残った たこ焼きを頬張る姿が愛おしい。照明はその心象を表すような茜色いや朝だから曙色であろうか。実に巧みな演出効果。

    珍しい設定ではないが、男女のそれぞれが置かれた立場、その裏に隠された心理状態が微妙に揺れ動く様が、けっして感情移入する訳ではないが、不思議と共感してしまう。それだけ洗練された言葉の応酬劇ということ。コロナ禍を引き合いに出すわけではないが、ほんと「グットディスタンス」な2人芝居だ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/07/17 11:14

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