実演鑑賞
満足度★★★★
噛み合わない会話、思いがけない相手の反応、気がつけば自分の足元が揺らいでポッカリと底なしの淵に落ちていく…。そんな別役実作品が、せつないリアルな感情の芝居として見ることができた。雲の上の訳の分からない別役ではなく、僕たちの隣にもしかしたらいるかもしれない身近な別役だった。
そういう点では、全然非条理ではなく、現状の裏には原因がきちんとある条理の通った芝居だった。
一見理解に苦しむ馬鹿げた日常の世界は、ただ馬鹿げているのではなく、その裏に大きな悲劇が隠れているからなのだと暗示している。被爆者を描いた「象」や、戦災の荒廃を匂わせる「マッチ売りの少女」など、初期の名作と通じるものがある。
「眠っちゃいけない子守唄」の話の通じない老人を演じたさとうこうじがよかった。変人だけど、可愛げがあり、無理筋なのに道理があるように見えて来る。相手のヘルパー役の大西孝洋は、戯曲では女性らしい。「彼との暮らし」「彼と夫婦で」というセリフが出てきてわかったが、そこまではまったく男性のセリフとして聞いていた。ジェンダーニュートラルなセリフに一驚した