銀の骨 公演情報 やみ・あがりシアター「銀の骨」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    物語のベースは小説「銀の匙」(中勘助)、構成はシュニッツラーの戯曲「輪舞」に工夫を凝らし精緻な構造を成しているようだ。
    この公演は実験公演・オーダーメイド#2となっており、いくつかの約束事を設けている。その中に上演時間60分程度というのがある。ところが、本公演は70分で目安時間を超えており、終演後の挨拶で脚本・演出の笠浦静花女史が律義にも謝っていた(誰も気にしていないと思う)。たかが10分であるが、案外重要なことでもある。例えば〇△演劇コンクールのような賞レースでは、時間制限を設けている場合がある(芝居に優劣と言うか順位はどうかと思う時もあるが、事実「コンクール」等はある)。
    また実験公演は第3弾も考えているとの案内もあった。

    さて、最近「別役実短編集」(基本2人芝居)を観たが、いつの日か、「やみ・あがりシアター実験公演オーダーメイド作品集」(1人芝居)なる企画をしてほしいものである。第1弾「アン」は未見であるが、高評価(未見のため他者評価を信用 無責任か?)のようであり、少なくとも本公演を観る限り、企画に値すると思うのだが…。
    コロナ禍ということもあるが、観客12名という贅沢な観劇空間で至福の70分。堪能した!

    ネタバレBOX

    小説「銀の匙」は、「私」という1人称で書かれているが、この芝居は私(1人称)、友人(2人称)、客である彼・彼女(3人称)を1人で演じる。相手役は登場しないが、さも相手が喋っていることへの返事や反芻といった言葉(台詞)で実在感を表現する。また実験公演の約束事である人形や紙芝居を用いて状況や情景を描き出す。これら全てを1人で行うから、その演技力、演出力は並大抵ではない。その点、久保磨介サンの演技は良かった。

    舞台セットは、複数の裸電球(点滅による心象効果)、四角に切出した石垣のようなカウンターというシンプルなもの。会場出入口にドアチャイムを取り付け、物語の区切りにメリハリを付ける。
    舞台はアクセサリーショップ、私(接客担当)と友人(=人形 制作担当)の2人で経営しており、オーダメイドで受注制作している。構成は輪舞のように小話(5話)が次々連関し、それをプロローグとエピローグで観せ始め 締め括る。会話劇が中心となる5話(景)からなり、最初(プロローグ的)に出てきた女性客と最後の依頼・男性客の邂逅によって「輪舞」が完成する構成。また話(景)の間には、その小話に纏わる洒落たオチを入れる。公演全体を饅頭に例えれば、5つの話が餡、プロローグとエピローグが皮で優しく包んでいるようだ。この皮が少し厚(長)めのような気もしたが…。ちなみに紙芝居で5話の(サブ)タイトルとオーダーアクセサリーが紹介されるという分かり易さ(第1話「銀の骨<ペンダント>」 第2話「あわただしいスプーン」←間違っているかも 第3話「外れない指輪」 第4話「小説の腕輪」 第5話「傷ついた指輪」)。

    エピローグ...私は店を去り、その後、友人(擬人化した人形)の独白が始まる。友人の長い人生が語られ、命の限りがみえてくる。一方、私は吸血鬼(ここでも「銀」が関係してくる)という設定であるから基本的には不死である。友人関係でいる限り、年を取らない不自然さを悟らせないため去ったのだと。しかし私(吸血鬼)こそが真に不在で、友人の幻想・妄想の類ではないかと、自分は思って観ていた。「銀の匙」の回想をさらに変化・深化させた芝居であると思う(深読みか?)。
    最後に、命に限りがあるからこそ、人との関わりは大切なのだと…。そうそう「関係」の話がこの公演のオーダーでしたね。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/07/04 17:18

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