実演鑑賞
満足度★★★★
本当に才能に溢れた人間はこの世にいるんだなあと思い知らされる舞台。これを観る事が出来ただけで当面自分の幸運に感謝。色んな若手女優に今作を観て貰いたい。アンテナがビリビリする筈。
サンモールスタジオの小さなステージで演ること、立地条件、全てが計算され尽くしている75分。
「神は細部に宿る」と云うが、音に徹底的に拘り抜いている。ベランダの掃き出し窓が開いていて風が静かに吹き込んでくる。レースのカーテンが優しく揺らめき、外の道路から街の音がずっと微かに聴こえている。客席からは見えない洗面所の音、携帯電話の声の音量、絶対にこうでなくてはならないであろう設計。
オープニング、福永マリカさんがベランダ越しに外をぼんやりと眺めている。笠島智さんはキッチンで料理の準備。
福永の誕生会に集まる友人達。コロナ禍のホーム・パーティーと云うことで、全員マスク姿のまま。五人の会話劇を表情はほぼ目だけという荒業で成立。実際にワインやビールを飲み、おつまみを食べ、とにかく部屋の美術から小物からリアリティーを徹底。彼女の部屋、今その場にいる感覚に陥る。
ほぼすっぴんの福永マリカさんの目の表情が猫の目の様にくるくる変わり釘付けになる。笠島智さんの凛とした立ち姿。奥野亮子さんとハマカワフミエさんの口論の見事さ。青山祥子(さちこ)さんの引きがあるキャラ。
複数の女性客の啜り泣く声や堪えきれない嗚咽、客席は段々と作品世界に取り込まれて行く。
ラスト・シーンの切なさ。ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』を観賞した後の何とも言えない気分を久し振りに思い出した。