山姥の息子 公演情報 水中散歩「山姥の息子」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    山姥の息子という怪異な設定、それを人間の日常生活に紛れ込ませ仄々と描いた(妖)怪作。物語は妖・異界、自然界と向き合った問い掛けという、ある意味 啓蒙的な意図があったのかもしれないが、自分には感じ取れなかった。
    山姥の息子を通して民間伝承を蒐集するという内容であるが、柳田國男の「遠野物語」「妖怪談義」の世界観の類型ではなく、人間社会 いや家族との関りという身近な世界観に収まる。
    (上演時間1時間35分)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、上手側にシルクロード音楽演奏家の大平清氏の生演奏スペース(敷物)。楽器はサズ、ウード、レバナ等(と思う)といった伝統楽器。演奏は雰囲気を醸し出し、かつ印象的で素晴らしかった。下手側は木組みを積上げ山をイメージさせたオブジェ、中央に同じように木組みした椅子が数個置かれ、やや上の後景はたたみ込んだ色布、それが映像照明と相まって険しい山稜を映し出す。舞台セットは趣があって良かった。また山オブジェの上り下りは躍動感があり、動的効果を見せた。

    冒頭、暗転した中での叫び声、そして倒れている人のシーンから始まる。このシーンが中盤以降に繋がるわけだが、前・後半で物語が歪に変容していく。もっとも冒頭のおどろおどろした雰囲気は始めだけ。前半は、いつの間にか山姥の息子は静間家(代々語り部)の居候となり、当家の長男の伝承蒐集に協力していく。この山奥の村に纏わる100話を集めることを父から言い渡され、渋々作業に取り掛かるが…。後半は、冒頭倒れていた人はこの村の元猟師・冠野多作(丸尾聡サン)で、山姥の息子に殺された。そして怨霊となって息子(弟)に付きまとう悪意に満ちた展開へ。この丸尾サンの悪意と飄々さその表現の違いが実に上手い。

    さて、怪異な世界の対極として科学(医学)的な場面を挿入してくる。嫌なことは記憶の底に封じ込めているが、何らかの拍子に思い出してしまう。静間家の祖母も山(この地では大我山)でどろどろに溶けた死骸を見つけショックを受けていた。また山姥の息子(弟)も同様に記憶の忘却。嫌な記憶を医学的に除去、克服してしまうという荒療治も提示される。物語の世界観からすれば、合理的な対処と思えるようなことでも、何故か人智を超えた現象(出来事)の前では傲慢に思えてしまうところが不思議だ。

    ところで山姥の息子がどうして人里へ現れ、人間社会に紛れ込もうとしていたのか。山姥は山で人間に出会い喰らい殺してしまう。そのため息子と別れるという説明であったが、一方、山姥の息子が猟師を殺し、怨霊となった猟師の悪意を受けるというのは、なかなか理解し難い。劇中何度か、山で異界のものと遭遇した時は、お互い生きるために真剣に向き合うもの、という台詞があっただけに。物語の設定は面白いと思うが、冒頭の怪しげな雰囲気、緊張感はいつの間にか家族再生の緩いホームドラマへ転じていくようだ。雰囲気の一貫性、物語内の緊密な関連性がもう少し観られたら…。例えば、伝承エピソードを物語に絡める等(相撲シーンが何度かあったが、金太郎が山姥に育てられたと言う伝承)のように。
    最後に、自然(人間以外の動植物含む)との共存といった暗喩があったのか否か、作者の思いの欠片さえ見出せなかったのは残念(自分の感性の問題か?)。
    次回公演も楽しみにしています。

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    2021/06/24 10:43

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  • 成子です。非常に細かい所まで受け止めて頂いて有難うございます。
    感想、大変興味深かったです。

    2021/06/25 02:00

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