愛、あるいは哀、それは相。 公演情報 TOKYOハンバーグ「愛、あるいは哀、それは相。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    4回目の公演となる劇団の看板作。
    2011年3月11日の福島県南相馬市の大津波がプロローグ。その年の9月、三重県伊勢市に亡き夫の妹夫婦を頼って疎開してきた母と娘二人。妹夫婦は喫茶店を経営しており、地元の仲間達の溜まり場にもなっているアットホームな店。この喫茶店での何てことはない日常をスケッチしていく。

    中津留章仁氏率いるTRASHMASTERSっぽい肌触り。当たり前のように飛び交う方言の遣り取り、軽い日常会話で示す濃密な一人ひとりの関係性、根の張った共同体の“場”を序盤から見事に観客に提示してみせる。
    マスター役甲津拓平氏、見た目は強面武闘派の宮迫博之似だがリアクションのリズム感が良く、多数の出演者を円滑に回す潤滑油として見事に機能。観客を退屈させない。
    出演者全員ただの賑やかしではなく、各々きっちりとしたドラマを背負っている所が脚本の見事さ。
    特筆すべきは無愛想な次女役の吉本穂香さんで、リアルな人物像を見事に造形。後半彼女の笑顔が零れるシーンなどほっとした。

    放射能汚染の謎、未だに福島原発周辺はどの程度汚染されているのか?10年経った今でも謎のまま。

    ネタバレBOX

    大津波の音響はセンサラウンド方式で、客席までビリビリ震える。

    大晦日の月夜、母娘三人で羊が牧草を食べている姿をのどかに眺めている。亡き父との家族の思い出話。ウミガメが大好きだったこと。その理由はウミガメが産卵の時、自分の子供達の為にどこまでも献身的に尽くす姿であったこと。
    店に店主家族や常連客達が集まり、伊勢の木遣り唄を披露して親子三人を盛大にもてなす。その真っ只中、電話が鳴り長女の行方不明だった恋人の死体が身元確認されたとの知らせ。
    仕事を辞め南相馬に独り帰ろうとする長女、それを泣いて止める次女と激昂する母。終わりの無い口論が続く中、ふと窓の外の光景を目にして静かに止む。観客にはそれは提示されない。母がじっと外を眺めながら長女の帰郷を静かに許す。シーン終わりに判るが初雪が空からしんしんと降り始めたのであった(照明エフェクトで表現)。素晴らしい名シーン。

    硬派ルポライター(宇鉄菊三氏)と母(清水直子さん)の今後を予感させる演出も上手い。久し振りに店にやって来たルポライターに次女が「お帰りなさい」と自然に口にする。男のはっとする表情。

    次女目線で淡々と世界を綴っても良かったのでは。
    全体的に凄く品の良いお話過ぎて、ドラマがドラマを突き破る瞬間みたいなものが観たかった。

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    2021/06/18 23:41

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