外の道 公演情報 イキウメ「外の道」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    海鳴りならぬ、空鳴りのする田舎町。UFOが接近したのではないかと思う程の異音、みんな反射的に空を見上げる。何十年振りに偶然再会した男女、安井順平氏と池谷のぶえさん。二人が語る近況と誰にも信じて貰えない本当の話。
    本格的SFとして設定が面白い。ただ、後半池谷のぶえさんの話に移行してからが余り盛り上がらない。黒沢清の『回路』のように孤独に世界と戦っている哀川翔みたいな存在が欲しかった。

    ネタバレBOX

    思いっ切り黒沢清っぽい語り口から始まる。辺鄙な田舎にある小さな喫茶店のマスター(森下創氏)が手品に見せ掛けた超能力ショーを余興として公開しているセンス・オブ・ワンダー。物体の中に傷一つ付けずいとも容易く物体を挿入させてみせる。それを見た主人公(安井順平氏)はかつて遭遇した不思議な事件を思い起こす。与党の大物代議士がパーティーの最中、突然昏倒、脳内出血で亡くなるのだが、脳の中から割れたビール瓶の破片が出てくるのだ。外傷一つ無かった為その事実は伏せられたのだが、主人公はこのマスターの仕業だと確信する。マスターの帰り道を待ち伏せして超能力について問い詰める主人公。マスターは「自然の理に過ぎない」と答える。約束を破り他人にこの秘密を漏らした主人公はマスターによって脳に氷を挿入され、少しずつ見えるものが変わっていく。

    マスターがマツモトクラブ的でカッコイイ。『スキャナーズ』っぽい描き方で現実に紛れ込んだ異邦人としての超能力者のリアリティー。彼が主人公で良かったんじゃないか。

    池谷のぶえさんの話は、見知らぬ誰かから届いた宅配便の小包、品名には“無”。開けてみると何も無い。悪戯かと放置したが、数日中に漆黒の闇である“無”がどんどん家中を覆い始め遂には池谷のぶえさんも呑み込まれてしまう。日の出によって“無”から解放されたが全裸で遠くのマンションの屋上に立っていた。「こうして日が昇ることの方がよっぽど不思議だ」との名台詞有り。何とか帰宅してみると見たこともない自分の養子(大窪人衛氏)が“無”から創生されていた。

    “無”に対抗するのが想像力であることがスティーブン・キングっぽくて良い。話のエッセンスが『ミスト』っぽいかも。

    誤配を意図的に繰り返して宅配会社を馘首になる主人公。自然に在ることを肯定し始める(『森田療法』っぽい)。どんどん妻(豊田エリーさん)の顔が整形を疑う程に美しく見えてくる。入院を迫られて逆上し妻の浮気を告発するも、只の思い違いであること(しかも自分は知っていた)に愕然とする。
    池谷のぶえさんは家中が真っ暗闇に包まれ、最早生活が出来ない。「何も見えないのではなく、“無”が見えるようになったんだ」との名台詞。突然存在し始めた養子は証明書の類がある為、誰も疑わず周囲に馴染んでいく。池谷のぶえさんは自分に関する証明書類を全て破り棄てる。

    二人が真っ暗闇の“無”の中に飛び込んでいくのがラスト。

    他にも認知症になり精神が十七歳の頃に逆行した池谷のぶえさんの母(清水緑さん)の姿が、養子の目には十七歳の少女に映るなど至る所に謎は散りばめられている。

    が、全ては隠喩でも暗喩でもなくナニカの意思でもなく、解釈されるべき答えもない。ただ呈示しているだけであることが観客を不安と不快に陥れているのであろう。

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    2021/06/13 16:08

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