外の道 公演情報 イキウメ「外の道」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    従来のイキウメ作品から受ける快感は、未知の領域へと分け入るぞくぞく感、謎の事象が「解明」されて行く痛快さにあり、常識を揺さぶる世界観とこれに息を吹き込む俳優への「感心」の要素が大きかった。
    ところが今作はストーリーや世界観の斬新さより、新型コロナ禍の下で加速するある種のベクトルへの疑問を全力で投げかけたものと感じる所大であった。従来作品では人間同士の悩ましい諸々はあっても、あくまで「敵」は(現実世界に問題を持ち込んだ)不可知領域であった。だが今作では不可知領域(が示唆するもの)に気づけない人間、空気に従いしたり顔でステロタイプを押し付けて来る浅薄な人間が不気味な「集合」として見えて来る。(主人公となる二人以外の人物たちを風景として描き、コロス的な動きをさせる演出にそれは表れている。)
    これを書かせた作者の心底は知る由もないが、わが眼には舞台に切実なそれが滲み出すかに見えた。

    ネタバレBOX

    今作ではセンスオブワンダーの世界を如何に矛盾なく(あるいは二時間楽しめる程度に)解明し、成立させるかは殆ど目指されておらず、あらゆる超常現象がまるで地球を滅ぼす人間に対して全面戦争を挑む妖怪たち、という構図を思わせる。「無」の存在、「空鳴り」、過去のない人間・・。時々聞こえる不穏な「空鳴り」の方へ人々はその時注意を向けるが、垂れ籠めた黒雲の下に長らく住まう日々を受け入れている風でもある。「無」は主人公(ら)にだけ感知され、「その他大勢」には見えない。この違いが「無から生まれた人間」の存在の受け止め違いに表れ、両者が似て非なる事を観客は見る。超常事象をその存在ごと感知する希少種である主人公(ら)は、現実世界では不器用な生き方の選択をせざるを得ず、明確に表裏の関係となる。彼らは最後に一つの決断をするが、この物語上の解釈はどうあれ、確かなのは自分を守る(売り渡さない)ために「この社会に暮らせなくなる」選択をする勇気が常に試みられている事(主人公二人のように)。
    イキウメ作品にあった現代人の精神生活に豊かさを分け与える「あり得る一つの考え方」は今や急迫を告げる事態の中で皆に指し示されるべきあり方、となったのではないか。今現在に対する態度を観客に問う、芸術の側からの申立てを物語構成を通して物した前川氏の筆力にはやはり「感心」。

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    2021/06/12 08:59

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