JACROW#30『鋼の糸』 公演情報 JACROW「JACROW#30『鋼の糸』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    昭和・バブル期(1980年代半ば)から平成(2019年頃)にかけての約35年間のビジネス史を、ある合併企業内の出世競争を通して描いた骨太作品。合併するまでのダイナミックな過程はサラッと流し、拮抗していたライバル会社で働いていた人々との出世競争(勢力争い)、及び現代の労働環境の変化、時代状況や社会事情に翻弄されるサラリーマンの悲喜交々を描く。もっとも悲哀がほうが前面に出ていたが。
    何となく自分が働いていた(現在も進行形だが)時期に重なるので、懐古的な気分で観劇。ただ、合併後の組織内という観点が、物語の世界観を小さくしているような気がした。
    ちなみに「鋼の糸」とは、実に含蓄あるタイトル。観劇しないとその意図が解らない。
    (上演時間2時間 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、正面に回転式の木扉のようなものが並び、その奥に通(透)し通路らしきもの。上手・下手側にそれぞれ長テーブルとOA椅子が数脚あるのみ。場面転換に応じて動かし、それによって情景や状況を立体的に構築していく。作り込まない造作によって素早い変化が可能になり、物語のテンポも安定しており心地良い。

    梗概…千葉製鉄と富士鋼管というライバル会社がグローバル化に対応するため合併する。同規模の企業であれば、合併後の役員を含めたポスト争いは苛烈であろう。企業体質が違えば色々な面で不整合が生じる。組織内の不協和音は人間関係から生じていることを浮き彫りにする。学閥・派閥(ここでは大学ラグビー部の先輩後輩)等を絡め抜き差しならぬ状況を丁寧に描く。人事の思惑がサラリーマン人生に大きな影響を及ぼす。80年代は残業(サービスも含め)は当たり前、過労死という見出し新聞もよく見た。物語は営業部門を中心に描いているため、過剰接待・カラ出張等、世相を反映した出来事を巧みに取り入れる。
    しかし、時代を経て長時間勤務の見直し、それに伴いコンプラやワンオーワンミーティングといった台詞が出ることによって、政府主導の”働き方改革“をイメージさせる状況へ。時代状況の変化は、労働環境(働き方)の変化に繋がり、昔(少なくともバブル期)流の働き方は通用しなくなる。そして人の意識(終身雇用)も変化し起業家する動きも見える。しかし企業の利潤追求は変わらず、目標・計画達成には残業せず業績を上げること。一層の効率至上と成果主義の両方を求める。物語は、中間管理職ポスト=その立場が人を形成するかのようで、上司の命令・部下の具申の板挟みで苦悩する姿を滑稽に描き出す。少しホッとさせるのは、上司・部下の間で部下の手柄は上司のもの、上司の不始末は部下へ押し付け というシーンはなく、全て上司が責任を負うという潔さがあったこと。

    物語は、組織内の観点で描いているため、端的に言えば出世を目指す男たちの物語になっている。だから計略、嫉妬、世辞、卑屈、憎悪が渦巻き、そして不倫も…。しかし、内部の出世競争とは別に顧客(外部・第三者)観点で描くことで、もう少しダイナミックな展開ができたと思う。組織内における人間関係や出世競争に焦点を絞ったほうが、濃密に描けるかもしれないが、内輪話に終始するのではないか。せっかく社内ではSWOT(スウォット)分析を行うこと、さらに業務提携や資本提携といった台詞で顧客との関わりを持てるシーンを提供しているだけに残念だった。

    もう1つ、登場人物の出世競争は男性が中心。確かに女優陣は3人と少ないが、男の出世競争の中で翻弄されながらも、それでも今の時代を反映するような活躍の場(辛うじて起業家を選択)があってもよかった。働き方改革は女性活躍推進と密接に関わるのだから。
    ラストシーン…サラリーマンとは? という問いに「笑えないピエロ」と答える。ほんとうに笑えない喜劇であった。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2021/05/30 00:41

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大