獣唄2021-改訂版 公演情報 劇団桟敷童子「獣唄2021-改訂版」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    劇団桟敷童子らしい舞台美術と演出、そこに描かれる人間模様は実に悲しく儚い。が、一方で逞しい生命力を思わせる、その人間賛歌に身魂が震(奮)える。
    初演(2019年12月)は観ていないため、どこを改訂したのかは分からない。
    ところで、公演の当日パンフには「『獣唄』の再演をやると決めたのは去年の1回目の緊急事態宣言中である。(中略)得体の知れない何かが僕を搔き立てた。何故かしら『獣唄』をやらなければならないと思ったのである」と書かれている。
    何となくだが、その理由が分かったような気がした。
    (上演時間2時間 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、木枝の両端を紐で結わえ縄梯子状にしたものが複雑にそして幾重にも絡み舞台全体を覆っている。緞帳代わりに木々が立ち横たわる。それは急峻な山肌、山道を表し山奥の寒村を出現させる。中央は九州にある村の広場といったところ。そして登場人物は、この村の人々と外の者(種苗業者:東亜満開堂)に大別できる。

    梗概…時代は昭和13年~15年頃というから、日中戦争から第二次世界大戦へかけて軍靴が高らかに響いてくる。そんな時代を背景に、山奥の(仙獄)村にいる唯一の珍花採取人(通称:ハナト)・梁瀬繁蔵(村井國夫)と3人の娘(長女トキワ-板垣桃子、次女ミヨノ-増田薫、三女シノジ-大手忍)、その親子の愛憎、そして相克を描く。また村の掟や因習(現代的には男女差別だ)が時代閉塞と相まって重苦しくのしかかる。
     父・繁蔵と娘たちの愛憎は、母が生活のため山に珍しい花(蘭)を求めに行ったが、悪天候のため落命。にも拘わらず父は花採取に没頭し娘たちの生活を顧みない。女は山に入れないという掟を破ったがゆえに墓さえ建てられない。しかし、何時しか娘たちも珍しい花採取に心奪われ、父を恨みながらも弟子入りする。足が悪い次女は花採取人にはなれず村の男の慰み者に、長女と三女は次第に花採取人としてライバル意識が芽生え、父・姉妹の間で相克が。
     生活のため珍しい花(蘭)を採取するが、それは高く険しい崖に咲いている。命がけであるが、いつの間にか花の採取に明け暮れていく。一方、時代はますます軍事色が濃くなり、徴兵制はもちろん花禁止令…食料農作物以外の作物の栽培は禁止。そして不急作物とされた花を育てることへの統制。いつの間にか娘たちとの情を繋ぎ、なによりも生きるため逼迫した状況の中、かつて死の狭間で見た獣唄に命を救われたという繁蔵は、再び獣唄を探しに山へ向かう。獣唄-絶望の果てに咲く花、を見つけるために…。

    戦時下を背景に個々の心情変化や感情の通い合いを描き、さらに不穏な空気感を漂わせる。社会状況(村人と東亜満開堂の社員との諍い、召集による働き手不足、令状が来ない心理的圧迫等)と先の親子関係を重層的に紡ぎ合わせ、物語を叙事詩的に展開していく。ラスト、大吹雪の中 命を賭して獣唄を採りに向かった繁蔵の前に三体の獣唄…それは繁蔵の亡くなった娘達の姿を借りて現れ、生きろと叫ぶ。クライマックス、舞台が船甲板のように大揺れ、それが自分の感情の揺れとシンクロし感動に酔いしれる。そこに感情的なカタルシスが生まれる。

    桟敷童子らしい演出、薄暗い中に白い紙吹雪、そこに青白い照明を照射し幻想的な風景を出現させる。奥深い山、閉鎖的な村、その土臭さにあっても何故か純粋に美しく気高さを感じさせる。音響は、重低で寒風吹き荒ぶ効果音、同時に切なく物悲しい、それでいて優しく包み込むようなピアノの旋律。実に見事な印象、余韻付けであった。
    この時期(コロナ禍)に上演したいという思い、分かるような気がした。

    次回公演も楽しみにしております。

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    2021/05/26 21:00

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