アルビオン 公演情報 劇団青年座「アルビオン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    いかにもイギリスのウエストエンド新劇と言う感じの作品だ。2018年の初演。
    イギリスの劇作家が、自らの市民生活の中に分け入っていく技術は大したもので、この作品にも若い作家なのに、その伝統が遺憾なく発揮されている。アルビオンと言うタイトルは日本でいえば、「みずほのくに」。自国の伝統庭園に託して、現代人間模様を描いて見せる。伝統を保守することの難しさをその場限りの政治アピールにしないで、自国に根強く残る階級社会、性差別、家族・親子関係、地域社会の「伝統」にも万遍なく目配りして描いていく。ようやく40歳になったばかりの作家とは思えぬ熟練の技で、こういう作家を育てて、劇作家だけでなくテレビや映画でも使って世界的作家にしてしまうところは演劇王国らしい。余談になるが今映画が評判になっている「ファーザー」の脚本もクリストファー・ハンプトンで、若いころは20歳代でデビューした演劇界の麒麟児、日本でも、三十年前、まだ彼が三十代のころ「金環食」やいくつかの作品は上演した。ファーザーの原作はフランスの劇作品だが、映画を見るとタイトルは原作よりアカデミー賞作家ハンプトンの方が大きい。ピンターはノーベル賞だ。作家の成長を社会も後押ししている。
    イギリスの作家のうまいところは、ドラマを一筋縄ではくくらいないところだ。それでいて、さまざまな観客を自分の世界に取り込んでしまう。
    青年座は十年ほど前から、翻訳劇も手掛けるようになった。劇団員はプロデュース公演にもよく起用されるから劇団外で翻訳劇の経験はあるのだろうだが、そういう場では演技が型通りになりがちだ。主人公の夫、隣家の主人、庭師、召使、など、よくわかるけどもう一工夫できるところだ。
    津田真澄も小林さやかも那須凛も過不足なくうまいのだが、舞台には華がほしい。
    青年座は、日本の創作劇を目指してきたが小劇場全盛時代になって、椎名麟三、矢代静一の流れの新劇からは作家も出てこなかった。しかし、海外作家に突破口を見つけようとした時に、サルトル、とかベケット、あるいは手っ取り早い社会問題劇ではなくて、いまの大衆が見る演劇を選んだのはなかなかの慧眼だった。日本でも若い作家は小劇場離れで、古川健、横山拓也、桑原裕子、加藤拓也、注目の新人はみな小劇場の限定された観客ではなくて、普通の日常の中で演劇を見ている。青年座もいち早く彼らの作品を取り上げているが、そこで、このような海外作品に触れる経験が一層の成熟をもたらすことを期待したい。

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    2021/05/26 11:35

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