うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた 公演情報 劇団チャリT企画「うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    チャリTらしい舞台である(当たり前だが)。インターネットに流れる議論や情報のいかがわしさと、それに見合わぬ影響力。このアンバランスの弊害はコロナ禍に目を奪われている間に実は加速しているのではないか。
    作品が描く事件はSNSを介した情報の錯綜が起こした騒動である。三世代家族に祖母からの電話の一言だけが残され(その後は圏外不通)、現状を知り得ない状況にもたらされる不十分な情報が憶測を広げ、勘違い情報がまことしやかにネットに流れ、それに翻弄される人たち。荒唐無稽な要素もあるが、これが交通事故ではなくコロナに関わる出来事であれば今は笑えない深刻劇にもなりそうである。

    ネタバレBOX

    セットは双葉家の居間。ここで五人家族の右往左往が展開(正確には娘とその恋人、息子、父母、たまたまやって来た叔母の6人)。
    他の場面はスポットで下手にyoutuber仲間3人、上手には6歳の息子が家に帰って来ない母とママ友、つぶやき五郎、セット上のプラットホームには匿名電話や書き込みをする者たち。
    事故そのものより、事故を契機に発生するあれこれが本題である。まずネットに上った「事故を起こしたおばあちゃんの孫」に関する誤情報。住所を突き止めたと面白おかしく紹介するyoutubeの動画が発端で、何者かが割り出した「孫」の名=双葉淳(じゅん)と同姓同名の双葉淳(あつし)が誤ってその標的となる。
    これにつぶやき五郎なるネットで知られたネームの持主(実は教師)がコメント付きリツイートするが、これに憤慨した「誤解された方」の双葉淳の仲間の先輩がプロバイダーにアクセスしてパーソナル情報を入手し、相手に電話をかけて法的措置を取るぞと脅す。
    一方、息子・翔が夜になっても帰宅せず焦り始めた三田は、ネットに上った「今日の交通事故現場に黄色い帽子が残されていた」との情報(結局はガセ)を失踪と関連付け、真相を知ろうとする。彼女は双葉家の娘・葵の元バイト先の同僚でもあり、「双葉淳」情報を見て珍しい名前にふと思い当たり、それとなく葵に電話して住所を尋ねるが、ネットに上った近所の(丁目違いの)住所と違っていた事で誤解だったと安堵し、「本物の(実は偽物の)」双葉淳宅を訪ねる。
    場面はその双葉淳(あつし)の部屋、そこへ先の母を含めた3名が、それぞれの事情で順次訪ねて来る。母の他の二人は若い男女であるが知らぬ同士、その事情とは「事故を起こした車」の助手席に「レンタル彼氏」(恋人派遣業)が乗っていたとの情報(これもガセ)を見て、いずれも「丸一日連絡が途絶えていた自分の恋人」だと確信し、訪ねてきたと言う(ここでは恋敵の反目を男女でやってる図で笑いを取る)。
    次の場面、元の双葉家の居間にて、youtuber仲間3人と「自称恋人」2人、母・三田が座卓を挟んで双葉家の者と対峙する。結局レンタル彼氏とは不通だった電話が通じ、「車に乗っていなかった」と判明、三田の息子翔もママ友からの電話でその娘・麻里矢と隠れんぼをして押入れに寝ていたと報告あり、行き違いは解決。そして警察からの電話で母の行方も判明、病院には搬入されたが殆ど無傷であると知らされる。残ったyoutuberたち。「誤解」による炎上を円満解決したく、「本物とのご対面」場面を動画に撮りたいと申し出るが断られる。
    ただの迷惑者と思われたyoutuberらだが、「本物」の双葉家の所在を彼らが知ったのは偶然UberEatsをやってる双葉淳(あつし)の携帯に、食事を据え置かれた双葉家からマックポテトの注文が(「双葉淳」名義で)入ったから。「本物」宅へ注文品を届けた際に他の二人も同伴して警戒され、注文拒否に合うのだが、帰り際、そのポテトを淳(あつし)が淳(じゅん)に渡す。
    最後の伏線回収は今日の双葉家のイベントであった娘の恋人からの「大事な話」。予期せぬ展開の中で使命感を帯びた恋人の思わぬ奮闘あって、歓迎モードですんなり結婚承諾と相成る。これら問題解決は皆、知った者又は現実に「対面した」者同士で遂げられるが、劇中、不協和音のようにネットや電話での無責任な情報提供、誹謗中傷が折々に挟まれる。そして終幕では顔の見えない者に対する「負の感情」の放出の図を通してネット世界、引いては現実世界の闇が仄めかされる。

    喜劇は大団円を迎えるが、最後に残るこの情景こそ劇のテーマで、コロナ禍を描いた劇と見えた所以。

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    2021/05/23 08:59

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