「母 MATKA」【5/17公演中止】 公演情報 オフィスコットーネ「「母 MATKA」【5/17公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    原作はチェコのカレル・チャペック、それを文学座の稲葉賀恵女史が演出した本公演は、大変観応えがあった。原作は1938年に書かれたらしいが、現代でも普遍的と思えるし説得力ある会話劇。もちろん原作の良さはあるが、それを演劇的に観せる巧みさ、その観点から言えば脚本・演出・演技そして舞台美術・技術のどれもが素晴らしかった!
    内容は、女と男という性別はもちろんであるが、母としての思いをしっかり描き込んだという印象である。それは特別なことではなくごく当たり前な感情であるが、社会というか状況が異常(非国民的扱い)へと煽るような…。家族の会話を通して、根底にある不条理を浮かび上がらせる重厚な公演。

    (上演時間2時間 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台は亡き夫の書斎。中央に両袖机、上手側にはミニテーブルが置かれている。また上部から銃やフェンシング剣が吊り下げられている。下手側には本が積まれ、上手側と対を成すように本が吊り下げられている。小物としての当時のラジオ、蓄音機、複葉機模型、チェス等がある。これらは物語の中ですべて使用され無駄がない。後方はカーテン(紗幕)で、後々重要な演出効果を果たす。
    下手側に亡き夫の軍服姿の肖像画があり、本人(大谷亮介サン)が額縁の中でポーズを撮っている。そして妻(増子倭文江サン)だけになると、額を跨いで出てきて、互いに思いを語り始める。この跨ぐ行為によって来世と現世の違いを表すが、物語の展開上あまり重要ではない。何しろ末息子を除く男(父親、夫、息子4人)は全て亡くなっているが、何の違和感もなく幽霊となってたびたび現れ議論(男の立場は議論であるが、母の思いは会話)する。ここに演出上の奇知を感じる。

    梗概…母には5人の息子がいた。長男は戦地に赴き医学(黄熱病)研究に、次男は飛行機乗りとして技術開発に、そして双子の三男と四男は体制側・革命側に別れ戦うことになり、各人が名誉、社会的な立場、信念を貫き死んでいく。末息子は夢見がちで、他の兄弟とは違っていた。国では内戦が激しくなり、またラジオからは隣国からの侵略防衛するため国民に戦争参加を呼びかけるアナウンスが続く。隣国の敵も間近に迫る中、母はトニ(田中亨サン)だけは戦争に行かせまいと必死に守ろうとするが・・・。
    さてラストは、観客の考え方次第で異なるだろう。

    男は祖国、名誉、医学・科学発達、自由・平等といった信念など、何らかの大義のために死ぬ、そのことに悔いはないという。しかし、母は子を産み育てという感情の中で生きている。そう考えれば、この公演―表層的には、戦時下という状況において、男性の志向は国家などの抽象的な論理的概念、女性の思考は家族などの具体的な感情的概念といった性差の違いを観せているが、根底は「反戦」「生きる」とは? を考えさせる人間ドラマと言える。

    さて、妻は夫が立派な軍人であることを誇りに思っているが、現実には戦死してしまい葛藤を抱える。その葛藤の表れが、逃避しても「それでもあなたを愛したわ」という台詞。女性の繊細な感情の機微が見てとれる。また息子(長男)についての語らいでは、なぜ自分の息子が危険な地域で黄熱病に苦しむ人々を救うために死ななければならなかったのか? 長男は「医者の義務」だと言うが、母親は「でも、おまえの義務なのか」と問い返す。一方父は、優秀な者が、先頭に立つべきだと言い、息子を褒める。ここに悲しいまでのすれ違いがある。母親にとっては自分の家族が一番大事なのだ。異なる前提からは、異なる結論が導かれる。男たちも、好きこのんで死んでいったわけではない。(幽霊の)父からは、「もっと生きていたかった」という言葉がこの作品により深みをあたえている。

    原作の深みをより演劇的に観(魅)せているのが、演出等の素晴らしさ。まず小道具でフェンシング剣や銃が吊り下げられており、時々にそれを振りかざしたりするが、同じように吊り下げられた本は一度も触らない。そこに「武」と「知」の対比をみる。単純ではないが男(父と息子)と女(母)という本作の会話の食い違いを象徴しているようだ。またカーテンに遠近投影を用いた人影は、家族以外の第三者(群衆)もしくは社会という距離あるものを表現し、物語をより家族内の会話劇として際立たせている。同時に人影に銃声や号砲といった音響効果を巧みに併せることで緊迫感をもたらす。

    しかし、重厚な作品であるにも関わらず、常に緊張感を強いるだけではなく、ときどきクスッという笑いというか”間”の妙を入れるあたりは実に上手い。もちろんその間合いの上手さは役者の演技力であることは間違いない。安定した演技力に裏付けされた緩急自在の感情表現は見事だ。コロナ禍にあって、このような公演を観ることができて本当に良かった。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2021/05/14 08:05

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  • cottone 様

    素晴らしい公演を観させていただきありがとうございました。

    2021/05/16 14:33

    ご来場ありがとうございました!

    2021/05/16 00:49

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