映像鑑賞
満足度★★★★★
映像で鑑賞。劇場に行かれず大そう悔んだが映像配信と聞いて一も二もなく視聴券購入。時間のある日曜夜ゆったりと鑑賞した。
小説も読まず映画も観ていなかった自分には、シンプルな物語素材と構成による本作は新鮮で、シンプルである事の強さに感じ入った。歌われる唱歌もシンプルな旋律のものばかりだが素朴に琴線を叩いて来る強さがある。
演劇のカテゴリー的には新劇の範疇になろう演目、冒頭流れるインストの旋律だけの音楽が、一気に「現代」の時間へと物語を引き寄せた。
舞台はニッパの葉で織った小屋と、薄茶けた兵隊服、背後は恐らく映写でもって和紙を刷毛で汚したような肌合いに、遠く高山の頂き付近と見える稜線がさっと墨で描かれ、全体で見事に調和した絵となり自然の広大さも感じさせる。既に終戦と間もなく知らされる時期、兵士らは長引く駐屯の殺伐を合唱で和ませている・・やや浮世離れした閉じた世界と、外界との対照がいい。
水島上等兵という特異な一人の存在の投げかけるものを、受け止める余地が隊員たちにある。これらの人間像は「戦後文学」(と言われるカテゴリー)の中で、あるいは現実の日本人においても一つのモデルであり、平和憲法を頂く日本の戦後レジーム(安倍が用いたネガティブな意味でなく)の平和思想を象徴するようにも思う。
水島は「目にしてきたもの」を心の内に秘め持つようだが、具体的なエピソードとしては語らず思想の問題として孤独に乗り越えようとし、仏教へ傾斜する。そして彼を遠い人のように眺める凡人らは、しかしビルマに残るという水島を「忘れない」という決意をする。
戦争の惨禍に見合う決意を、今描くとするなら、「水島を忘れない」ではなく「水島が何をどう見たか」を忘れないと言わせたい。だが捕虜生活を終えた兵士らには彼を忘れないという宣言が精一杯の良心の発露であったと想像する。
戦争はそれが終わった時、生存者に様々な恩恵も与えた。だが日本はその恩恵を使い果たしてしまった。