ビルマの竪琴 公演情報 劇団文化座「ビルマの竪琴」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ミャンマーで軍事政権による虐殺がリアルタイムで行われており、その背後には中国の影が見え隠れする今現在。
    『ビルマの竪琴』は市川崑の新旧映画ニ本しか知らず、今回改めて舞台版を観ると良く出来た仏教説話のよう。戦場を体験していない著者(竹山道雄)が書いた児童文学なのだが、それ故に童話のような美しさがある。
    原作は水島が人食い土人に捕らえられたりもっと荒唐無稽な様子で、文化座版は隊員達の合唱による“歌”の連なりをメインに据えている。
    吃りの優しい男、音痴の軍曹、頑なに合唱を拒否するがいざ歌ったら素晴らしいバリトンボイスを響かせる隊員など一人ひとりのキャラが立っている。
    歌による人間性の確保、軍隊と僧侶の文化の対峙、自力と他力の哲学、英国人の讃美歌に対し顔を背け目を逸らす日本人の宗教観の脆弱さ。
    このネタを岡本喜八が調理すると『血と砂』になるのだろう。
    この作品をずっと後世に残す為ならば、もっと構成に手を加えても良かったのではとも思う。

    ネタバレBOX

    当時の日本人であっても、内地では情報統制により戦場の現実を知ることはなかった。終戦ニ年後に連載開始のこの作品にしても凡そ想像で書いたと云う。多分著者がインパール作戦に参加していたならこんな物語にはならなかったであろう。日本軍の死者の殆どが餓死とも言われている地獄の戦場だ。

    食料補給の交渉に現地の村に出向いた水島が帰って来ない。あと一時間待っても連絡がなかったら、村に侵攻すると隊長が決断。敵兵ではない村民を虐殺することにも成りかねない緊迫した事態。無言の重圧の中、暗闇で一人の隊員が歌い出す。「やめろ」と止める隊長。だが他の隊員も続々と加わり歌い出し、いつしか合唱に。後に一人の隊員が述懐する。「あの時、みんな歌うことで人間性を保とうとしていたのでしょう」
    名曲『埴生の宿』を合唱していると、周囲を英国兵に囲まれていることに気付く小隊。「最早これまで」と玉砕覚悟で歌いながら戦闘準備。すると英国兵も『埴生の宿』の原曲を英語で合唱し始める。それに竪琴で伴奏を合わせる水島。英国兵がやって来て、すでに終戦したことを告げる。
    放浪する水島、白骨街道や山や川に溢れた日本兵の無惨な死体の山から目を背けて逃げてくる。辿り着いた英国軍の病院から聴こえる看護婦達の美しい讃美歌。敵兵であった日本兵の遺体を弔っている。神に祈りを捧げる英国人に衝撃を受ける水島。日本人である自分は何故何もしてやれないのか?
    “歌”による名シーンが美しい。
    帰国する小隊に水島の連れていたインコが届けられ、『ああ、やっぱり自分は帰る訳にはいかない』と伝えるエピソードはカットされていた。
    軍隊に入って力を得、自ら世界を変えていく方法論と仏門に入って自分の無力さを受け入れあるがままの世界を受け止めていく方法論。自力と他力の哲学の物語でもある。

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    2021/04/24 23:52

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