ほんとうのハウンド警部 公演情報 シス・カンパニー「ほんとうのハウンド警部」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ややこしい芝居ということで予習をして出かけた。YouTubeには英語版の"The real inspector Hound"がいくつもフルサイズでアップロードされている。英語字幕は出せるが日本語訳はなく雰囲気を感じながら早送りするだけであるがそれでも相当に変な劇であることは分かった。この時点では劇中劇に犯人をおびき出して罠にかけるというミステリーかなあと思っていた。

    日本語の舞台を観るとさすがに凡そのことは理解することができた(と思いたい)。ややこしいとは言っても哲学的に難しいとか抽象的で意味不明とかいうことではない。エンディングは
     「実は…でした」
     「そんなアホな」
     チャンチャン
    というノリである……のじゃないかと思う(滝汗)

    無名の作家が無名の役者を集めて作った舞台なら「わけわからん」で済ますところだが、トム・ストッパードの作品をこれだけの陣容で演じるのだから凄いんだろうなあと思って観ていると、面白いような気がしてくるので、そう思うことにしようというところか。
    …そして「あらすじ」を書くつもりで振り返ってみるとどんどん仕掛けが見えて来るのだが、分析して「面白い」ことが分かってもそれが「面白い」のかどうかは(いつものことではあるけれど)また別の話である。

    ネタバレBOX

    登場人物および不登場人物

    ムーン = 演劇評論家 = 生田斗真
    バードブート = 演劇評論家 = 吉原光夫
    ヒッグズ = ムーンより上位の評論家 = ?
    パッカーリッジ = ムーンより下位の評論家 = ?

    アルバート・マルドゥーン卿 = 荘園の主、10年前から行方不明 = ?
    シンシア = マルドゥーン夫人 = 峯村リエ
    マグナス・マルドゥーン少佐 = アルバートの異母弟、車椅子生活 = 山崎一(二役)
    フェリシティ・カニングハム = シンシアの友人 = 趣里
    ドラッジ夫人 = 家政婦 = 池谷のぶえ

    サイモン・ギャスコイン = 女たらしの訪問者 = 鈴木浩介
    ハウンド警部 = 山崎一(二役)
    ウィリアム・マッコイ = サイモンと昔トラブルがあったカナダ人 = ?
    死体 = ? = 手塚祐介

    設定はアガサ・クリスティの戯曲「ねずみとり」に倣っているという。「ねずみとり」は「ハムレット」の劇中劇の題名である。王と王妃が劇中劇の王と王妃にシンクロするということがこの舞台「ほんとうのハウンド警部」と共通する。

    開演
    劇中劇開演前の客席にムーンがいる。やがてバードブートもやって来る。ムーンはいつもヒッグズの代理であり、ヒッグズがいなければ良いのにと嘆いている。バードブートは出演する女優の一人と関係を持っており更に別の女優にも関心を持っている。

    劇中劇第一幕
    人里離れたところにある広大なマルドゥーン卿の荘園内の屋敷。
    ラジオの放送があって狂人がこのあたりに出没していてハウンド警部が策略をもって捜索しているという。
    そこに放送があった容貌にピッタリのサイモンがやってくる。サイモンはフェリシティとシンシアの知人である、というかどちらとも関係を持っている。
    マグナスも合流して4人で微妙な会話のポーカーをする。
    シンシアに思いを寄せるマグナスはサイモンとの関係に気付きサイモンを脅して去る。
    シンシアもフェリシティとの関係を疑いサイモンを殺すと言って去る。
    劇中劇第一幕終了

    劇中劇第二幕
    お茶の時間があってからハウンド警部が登場する。ここでようやく舞台上に最初から横たわっていた死体が発見される。誰も知らない人物である。
    皆が退場したところにサイモンが登場するも何者かに撃たれて死んでしまう。犯人は誰だろうかが強調されて休憩になる。
    劇中劇第二幕終了

    ムーンは自分の更に下にはパッカーリッジがいてパッカーリッジは上の2人がいなければ良いのにと思っているだろうなあと複雑な気持ちを語る。

    劇中劇第三幕(=第二幕アゲイン)
    バードブートが舞台をウロウロしていると小道具の電話が鳴る。ためらいながら出てみると妻からの浮気を疑う電話である。
    ここから現実と舞台の境界が怪しくなる。
    バードブートがまだ舞台にいるうちに劇中劇はなぜかまたサイモンの登場シーンから再開する。バードブートはそれに気づかないのかフェリシティ役の女優とシンシア役の女優にちょっかいを出す。一方で女優たちはバードブートをサイモンだとして台本通りの芝居をするのだがなぜかこれがピッタリと合ってしまう。サイモンと同様にバードブートも殺してやると言われる。
    劇中劇第三幕終了

    休憩になって、バードブートは舞台上の死体はヒッグズであることに気が付く。そしてバードブートは「すべてが分かった」と叫ぶと同時にサイモンと同様に誰かに撃ち殺される。

    劇中劇第四幕(解決編)
    ムーンが駆けつけるといつの間にか劇中劇の解決編が始まっている。
    ムーンは客席に戻ろうとするがサイモンとハウンド(役の俳優というべきか?)に席はふさがれていて舞台に留まらざるを得ない。常々脚光を浴びることを願っていたムーンはついつい舞台上の配役からして期待されているハウンド警部の役をやってしまう。やる気満々のムーンはそこまでの伏線を挙げて推理し犯人を名指しするのだが死者(=ヒッグズとバードブート)は全く見知らぬ人であり殺すはずはないとすべて否定される。そしてマグナスに「唯一関係があるのはお前だ」と言われ、犯人にされてしまう。そしてマグナスは車椅子から降り変装を取り去って自分こそが本当のハウンド警部なのであり、罠を張ってこの日を待っていたのだと告げる。ここでムーンはマグナスがパッカーリッジであることを知り危険を察知して逃げようとするが撃たれてしまう。更にマグナスは実は自分は失踪していたマルドゥーン卿であって10年前に記憶喪失になってからはハウンドという名前で警察に勤め昇進して警部になっていたと語る。今回の作戦でここに戻って来て記憶を取り戻したのだと誇らしげに言いシンシアと抱き合う。マグナス=ハウンド警部=マルドゥーン卿=パッカーリッジを罵りながらムーンは息を引き取る。
    劇中劇第四幕終了
    終幕

    このあらすじを読んでもメタとの融合の面白さは伝わらないだろう。それにストーリーと直接関係しないようなセリフは全部スルーしている。少しでも興味を持たれた方は配信があるのでそちらをご覧いただきたい。

    原作では最初に現れるハウンド警部は偽物という設定だ。ハウンドの最初の登場シーンではハウンドとマグナスの会話があるし、初演の記録でもYouTubeにある[1]でもハウンドとマグナスは別の役者が演じている。この舞台では演出の小川絵梨子さんが最初から本物のハウンド警部が登場する設定に変えている。そのため山崎さんは非常に出入りが忙しくなって、より喜劇性が高まることになった。ただし改変の度合いが大きいので原作にも二つのパターンがあるのかもしれない。

    *和訳本が見つからなかったので、まったくの翻訳ミスによる勘違いがあるかもしれない。また参考文献に挙げた石田氏の博士論文は非常にためになった。私の文の中に少しでも気の利いた考察があればそれはこの論文によるものである。

    参考文献
    [1] The Real Inspector Hound - Portland Community College - Spring 2014 Play, https://www.youtube.com/watch?v=2FONFHaYSVY
    [2] 石田由希「エリザベス朝演劇と現代イギリス演劇にみるメタドラマ」第二部第6章「認識の解剖 ―『本物のハウンド警部』における劇場と劇評家―」、福岡女子大学博士論文2014
    http://www.fwu.ac.jp/lib/uploads/ck/admin/files/hakuron_4.pdf
    http://www.fwu.ac.jp/lib/uploads/ck/admin/files/hakuron_1.pdf も見よ。

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    2021/03/23 22:48

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