ジレンマジレンマ 公演情報 ワンツーワークス「ジレンマジレンマ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    初めて満足度5を付けた(確か..と思う)。原発事故後の福島の三つの「真相追求」の場で構成され、今や殆ど語られる事のないこの公共的な(であるべき)問題に触れられている。本作は現実のほんの断片だが、背後に横たわる福島のリアルへの推察へと導く契機となるのに十分な言及があった(これしきで言い尽くせたとは到底思えないがそれでも)。
    2ステージ目だが白チームは初日(と書いたが1ステージ目だった。両チーム共通の役者も初日)。多分その事もあり最前列で感知する俳優の熱は届きすぎる程の量であったが暑苦しさがなく、これまで観ていたこの劇団の「作為と自然さ」の塩梅とはやや違った塩梅を感じたのも新鮮であった。(うまく説明できないが..芝居にとってナイスな事である)

    ネタバレBOX

    事故から10年経った今なお生鮮食物の産地をチェックし、福島、また茨城を能う限り避け、東北各県と千葉埼玉栃木をランク付けし、茸類、根菜、米、葉物という具合に危険度ランクを設定し、肉類魚介の産地も同様に(水産は水揚げ港が産地になるので判別つきにくいが)気にする人はどの位いるだろうか。私がその一人だが周りにはまず居ない。が、実際にはスーパーではかつて危険域とされた産地と別の産地とが並んでいれば後者が先に売切れ他方が山盛りになっているのをよく見る。2つある内の「どっちが得か」や「安いのは何故」等と考えてふと思い出す、という人はまだ少なからず居るのだろう。
    劇中、産地(県)の表示で米が売れない小売り業者が「取調べを受ける側」として登場するが、生産農家でなく販売店に「風評被害」に対するやるせなさを吐露させている。・・現実には、居住や産業を続けるための「都合」で放射能基準の数値を政府は事故後に上げた。検査はサンプル調査に止め(サンプル採取の数量の設定も重要だ)、危険性の高さに応じて検査密度を上げる等といった「食の安全」目線に立った細やかな対応ができる政府なら、どれ程風評被害を減らせただろうか。「判らない」「見えない」から憶測が生まれる。実態をつぶさに知らせ、公表し、何なら食品のパッケージごとに検出された放射能値を(基準値以下でも)表示する、、そのくらいの事をやって「信憑性」と「信用」を担保しなければ、真実「予断」や「風評」が無くなる事は決してないだろう。(検査を間引いて実態が見えないのはコロナそのもの。日本の役人の体質なのだろうか)
    「見えない化」は忘却を助けるが、不信の種は残る。
    劇中、「取調べ」に呼ばれているのは夫婦で米屋をやってる妻の方。女性調査員の前で彼女は、虚偽表示という禁忌に手を染めた事をついに認めるが、彼女の中に触法意識はあっても罪意識はない。福島産の「安全な」米が売れない事の方が理不尽なのであり、窮状を見かねた知人にその話を勧められた時、(店の存続への心配もさる事ながら)福島農家が売れない米を作らされている事への義憤が湧いた。彼女の涙は事故後の状況に向けられているが、元を質せば事故そのものに行き着く。

    警察の取調べ室では、避難区域の空き家に入った二人の若者の一人。別室の相棒も後に登場するがこの相棒の人生を狂わせた出来事(震災前)に対する男の思いが終盤明かされ、利益相反ながら被災者の厳しい現実も重なる吐き出すような男の台詞が胸に刺さる。

    幕開きの場面(正確にはムーブの後)でありラストに来るのが東電福島第一原発の事故後対応に当たった「副所長」と事故調査委員会(政府事故調か衆院事故調か..)の調査官。実在の人物ではないだろうし、「現職」として調査に応じているのは芝居の都合上に思われるが、事故後の具体的事実(職員らの動き)を時系列に追うドキュメントの要素もある。当時が蘇ってきた。
    初演のメンバーでもあった白チームの永田氏を私は昔見ている(バブルの頃始まった深夜番組に若きSETメンバーの面々と出演していた)が、記憶と符合する片鱗を見出だせず。
    この弱々しく存在する「副所長」は、最後にこの舞台の命となる言葉を言う。ある意味、人生の暗部を黙して語らず、皺の貼り付いた人間が、真情吐露する瞬間とはこういう感じかも。きっと不器用な役者なのだろうと失礼ながら思ったが、それだけに不器用に吐かれた真情が胸に来た。

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    2021/03/05 08:52

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