満足度★★★★★
鑑賞日2020/08/29 (土) 17:00
岡崎さん演出版を拝見した。
箕輪さんは、ニーナの台詞の若い娘らしい真摯な声色から、場数を踏んだある種の余裕とその一方で多忙や年齢による余裕のなさとが同居する生々しい女優Cであった。
女優Cのプロンプターだった女優Dは、自分がニーナ役に選ばれた、という妄想を抱いている。「この前電話で作者と話した」などと口にする精神状態のあやうさと、そこまで追い詰められほどの役への思い入れ。女優Cとのやり取りは観ているこちらまでハラハラした。
そして、女優Aと女優B。あらためて観ると最初から最後まで出ずっぱりで台詞も膨大な、見せ場の多い役だ。それぞれの時代感。報われなかった過去への鬱屈とそれでも楽屋から離れられない執着。2人の個性の違いとバランスの良さが作品をきれいにまとめていたように思える。
この芝居の面白さは、劇中で使われるたくさんの過去戯曲のセリフにもあるだろう。『かもめ』を中心に、さまざまな戯曲が各場面を彩る。彼女たちの生きた時代ごとの翻訳の違いなども面白い。
その膨大な台詞と劇中の場面の心情と。彼女たちの生涯の憧れの1本は何だったのか、観終わってから気になったりもした。
たくさんの方々が演じてきた戯曲を、今回の岡崎さんの演出は真正面から丁寧に立ち上げて、執着や報われない哀しみの中にもどこか甘やかな憧れを感じさせた。