満足度★★★★★
鑑賞日2020/11/15 (日) 14:00
日本の訳書では「世界最終戦争の夢」、オペラでは「アルマゲドンの夢」うまい使い分けだと思う。(この機に及んで、「アルマゲドンの夢」に直して増刷しないところがよい)
前者のタイトルでないとウェルズ読者は納得しないであろうし、後者のようにしないとオペラファンは食指が伸びないであろう。
世界初公演の初日、まさにまさにの世界初公開。どんな舞台も初日は緊張するのだろうけれど、オペラ新作の世界初演の日というのは、関係者にとってどんな日なのだろう。この日を迎えられたのは私個人にとっても天恵。そう表現するに見合う作品、というか、私のテイストにずばり嵌った。その快感。
演劇を頻繁に観ている者でも、オペラだ、バレエだ、歌舞伎だ、人形浄瑠璃だ、となると、その敷居がどうも気になるのだけれど、新作においてはその敷居自体を感じないことが多く、各表現の枠組みは守られているものの、格式に気圧されるようなことがなく、比較的ストレートに受け入れられるものだ。その典型がここにある。歌曲は人物表現であり、物語の道しるべであり、目に見えない舞台装置で、1時間半を突き抜けていった。
それはスピード感とは異なる、じわりじわりとした得体のない圧迫感の通底で、それを登場人物たちの舞台衣装と配置、動きで、私の神経を蝕むように刺激する。
恐怖のない恐怖(だって夢だから)、しかし確かに存在する恐怖がそこにあり、少しずつ少しずつその渦中に心を引きずり混んでいく。ベラが殺され、クーパーが死んだ時、物語は反転し、世界戦争は夢から現実になり、むしろほっとした解放感まで味わった。
さすがコロナ禍の今、ブラボーの掛け声もなく、熱狂とは言えない終幕に、むしろこの作品の価値を見た。ステロタイプの拍手喝采もなく、そうだよな大騒ぎしないよな、というような雰囲気にむしろほっとする、不気味なオペラだった。
ベラの半身のような役柄インスペクターを演じる加納悦子の存在感がよい。悪魔譚かと思わせるジョンソンや冷笑者の登場。一縷の清冽な子供の歌声の不気味さ。そして、白い仮面と甲鎧をまとった兵士たちの圧巻、迫りくる戦渦の喧騒。繊細さと絢爛さ両立の舞台は見事。