満足度★★★
映像を駆使した演出でビジュアル面で健闘していた。電車内のシーンで周囲に車窓風景を流す。クーパーの自室の最初、紛争や貧困の映像を、妻のベラが引く海辺のカーテンで覆い隠すところにも、偽りの平穏への批評が見える。夫婦のベッドシーンも映像も使って少々扇情的に見せて見応えあった。ワーグナーの「タンホイザー」の地下の悦楽の園で、男女の数多の裸体が絡む、刺激的な演出には及ばないけれど。
白い仮面と防弾チョッキとマシンガン持った「スター・ウオーズ」のクローン兵の戯画も頑張っていた。
ただ全体としては中傷的で、感情的には入りにくい。観客の拍手も(さすがにブーイングはなかったが)戸惑い気味で勢いがなかった。最後は拍手も高まったが、この難解な作品を演じ切った労いの拍手のようだった。音楽も現代音楽の難解さを突っ走っていた。全体主義への危機感や、悪夢のような現実への無力感などコロナ禍重なるところもあった。
コロナの中、歌手陣も来日できてよかった。客席も100%販売していた。