満足度★★★
初演『ミカンの花が咲く頃に』の再演(タイトル改め『母樹 boju』)が新型コロナで延期となり、西山水木が原作をモチーフに出演者4名の小編に改作し、10月に2日間だけ上演(60分)。配信を見た。
初演は印象的な舞台で、地方に暮らす家族とそこに出入りする人々を描いたドラマだが、開発計画に分断された村の状況に家族が翻弄される社会的側面と、亡き「母」という一個の存在に注がれる視線が絡み、不思議に溜飲を下げた。初めて聞く作者・釘本光の名を頭に刻んだ公演だったが、もう一つの印象は何しろ舞台が狭い。上手壁際を袖に見立て、俳優が「気配を消す」事ではける処理など苦肉の策を施していたが、できれば家屋に植物を添えた装置のある舞台(紀伊國屋か、せめてスズナリ位)で観たい舞台であった。
さて今回は抽象度の高い詩的な舞台で、独特な場面割り、その中に振り(舞踊的ムーブ)もある。物語は久しぶりに実家で再会した姉妹が、生前の母の日記を読んで過去に旅し、母と自分自身に出会い直す話。母がかつて自ら求めて村の老人達から授ったもの、姉はその母を追うことでそれを手にし、今傷つき舞い戻った妹に姉はそれを手渡す・・再生の予兆がラスト、それと語らずに仄めかされる「演劇的語り」は雄弁。
姉妹が語る彼女らにとって凡そ個的なものでしかない家族の形が、既視感を伴って見えてくる。下北澤姉妹社の第一回公演(西山水木作・演出)に通じる不思議な味わいがあった。
ただし、配信映像は音声に難あり(台詞は聴きとれるが音割れが激しい)。
(それ差し引きでの★)