江戸系 宵蛍 公演情報 あやめ十八番「江戸系 宵蛍」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    表層的には、国家(権力)を悪とした勧善懲悪的な物語のように思えるが、もう少し間口が広く奥深い公演だ。もちろん成田空港建設反対闘争を巡る事件(内容)で、その背景になった1964年東京オリンピック-その光と影、どちらかと言えば”影”にスポットを当てることによって、その事件だけではなく現代にも通じる出来事を連想させる。
    (上演時間2時間30分 途中休憩10分含む)

    ネタバレBOX

    ほぼ素舞台に段差を設け、テーブルと椅子を配置し、それを移動させることによって情景・状況を出現させる。下手側に楽隊(ピアノ、パーカッション、ユーフォニアム)スペース。さらに劇場の特徴を活かし上部の別スペースを用いて別次元、別場所を演出する。
    梗概…1960年代の第二東京国際空港(通称:成田空港)の建設を巡る社会的問題と現在もその空港の滑走路の延長線上にある一軒家(千年<ちとせ>家)の現状を前回(1967年)東京オリンピックを絡めダイナミックに描いた秀作。

    冒頭は東京オリンピックの入場アナウンスと入場行進のシーンから始まる。この入場シーンは、今まで あやめ十八番 では観たことがない様式美、いわゆる全員が隊列を成し整然と歩く分列行進を思わせる。
    物語前半は、2020年_現在の千年家を市広報誌や大手ではないマスコミが取材を意図するところから始まる。この大手マスコミではないところに反権力的視点を思わせるあたりも上手い。物語は破格の買取価格を提示されても立ち退かない。一方、千年家の主人は空港のクリーンスタッフとして雇用されているという一見相容れない不自然な状況、そこに今を生きる術としての苦慮が表れている。

    後半は千年家の祖母-元空港建設反対同盟代表の妻-の回想というスタイルで紡がれる。1960年代、成田空港建設を巡り、国家等から買収が始まり、その地で生活している農民の暮らしを圧迫し始める。緊急国家事業として強制的な立ち退き、そのためには反対同盟へ介入し分断する、国家権力の発動として強制収用法を適用する暴挙。実行行為として機動隊まで使い死傷者、逮捕者を多く出した。農民側の抵抗運動に新左翼が加わり暴力性が過激化し…。そんな中に1964年東京オリンピックのマラソン銅メダリスト_出雲幸太郎が最初は友人の誘いで加わっていたが、次第に身を寄せている家族(千年家)やこの地の人々との交流を通して抵抗運動にのめり込んで行く。もちろんこの人物は実在したマラソンランナーを意識しており場所こそ違うが自殺している。上部の別スペースで「○○様○○様 美味しゅうございました」は有名な遺書の一節、それを台詞としていることから誰であるか容易に分かる。また彼自身の栄光と不遇という、ある種の「光」と「影」を物語に重ね合わせたかのように思う。

    2020年(延期?)と1964年の両東京オリンピックの繁栄(光)とその影響で辛苦(影)を強いられる、2つの時代の社会状況を背景にその地で生きる人々の立場や心情を活写するように描く。2つの時代を前半・後半として描き分け(あえて往還させないから休憩時間が活きる)、全体を巧みに構成し休憩を含め2時間30分という長さを感じさせない、観応え十分な作品。ほぼ素舞台だけに、役者は状況風景を作り出し、登場人物のキャラクターや立場、その心情を実にうまく演じており、演技力・体現力も見事だ。

    最後に、現在の東日本大震災における復旧の遅れ、豪雨による地域社会のダメージを思った時、この公演は単に成田空港建設反対闘争に止まることなく、現代に通底する思いのように感じた。国家都合の緊急事業は強権発動してでも迅速に行うが、先に挙げたような”市民のため”の復興・救済事業は遅々として進まない、そんな理不尽さへの批判が透けて見える公演。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2020/11/15 17:13

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