火の殉難 公演情報 劇団俳優座「火の殉難」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    鑑賞日2020/11/10 (火) 14:00

     やはり舞台表現の限界は、映画やドラマのような映像や紙片一つに落とし込む文学と違い、場面転換の限界と挿画・挿話ができないことにある。新聞記者が、高橋是清宅に来て話を聞く、あるいは過去の盟友達との邂逅や対立などを描いてばかりでは、その外で何が起こっているのかが判らない。これがドラマなら、日露戦争、原敬暗殺、血盟団事件や五一五事件、満州事変の関連映像などを挟むことで、高橋是清が戦った時代の空気感、つまり切迫感や緊張感がもっとわかりやすく伝わり、最後の悲劇へ観客の気持ちを強く繋げることができただろう。

     是清を描くとなると、当然、殉難となる二二六事件が最後の山場になるのだけれども、是清が戦ったのは、事件を起こした青年将校ではなく、その上にいる軍閥やそれを後押しする財閥であって、彼等ではない。むしろ彼らの敵と是清の敵は、同じ存在であって、青年将校は、その純朴さ故に敵を見誤ってしまった、ある意味悲劇的加害者なのである。
     だから、話の進行に付随して描かれる、上官を待ちわびる2人の将校の場面は、物語の説明にはなるけれども、ある意味、全く是清があずかり知らぬところで行われていた別次元の話なのであり、是清を描くことに何の寄与もしていない。
      むしろ描くべきは、政敵である当時の陸海軍大臣や、その取り巻き立ちと是清の対決であろう。正直言って、金輸出の禁止や解禁、金融恐慌を舞台で描こう(説明しよう)としても、それには無理があるので、はっきり人物として軍事費増大・大陸での戦線拡大を企む人物を登場させる方がよかったのではないか。

     ただ、さすが俳優座、是清を演じる河野正明以下、原敬、犬養毅、井上準之助らの重鎮を演じる加藤佳男、島英臣、谷部央年等の配役は見事で、さすがと言わざるをえない。こういう配役も想定しながら作劇できる古川健は、劇団チョコレートとは別の作品を書ける喜びをかみしめていることだろう。

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    2020/11/11 17:03

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