満足度★★★★★
ギャグと笑いと毒にくるんで、新宿二丁目のゲイ街や沖縄の米軍基地にまつわる差別や悲しみを描いていく。人生で挫折した登場人物たちの、再起の物語。自由への新たな一歩が最後は明るく華やかに歌い上げられる。松尾スズキには珍しい、メッセージがくっきりとした向日的な作品。たいへんおもしろかった。
ミュージカルなので、歌の場面も物語を盛り上げ、大いに感情を高まらせてくれた。猥雑で下ネタ連発の、少々長い前日譚のあれこれの後、冴えないコンビ店員(実は沖縄のユタの=長澤まさみ)と、落ち目の大女優(秋山菜津子)と付き人のゲイ(阿部サダヲ)が出会う。その第一幕の後半、長澤まさみが街中を突っ走っていく「うちはフリムン」から、物語が一気に活気づく。登場人物をリアルに造形し、観客の感情移入で、その世界を共に生きるというリアリズム演劇ではないので(いうまでもありませんが)、壮大なおふざけの中に、笑いと悲しみ、社会と歴史がうむ切ないあつれき、そしてあすを生きる活力がうまれてくる。デフォルメや人物像の単純化も多いので、そこは要注意。しかし、作者の視線は基本的にあたたかい。
「後ろからズドン」で、どんどん人物が死ぬが、死ぬことに悲惨はない。死んだ人は皆、派手な衣装で舞台に現れて、芝居を盛り上げる。ドンパチの見せ場が多く、最後は爆発・火災まであって、観客へのスペクタクルなサービス満点。はやめちゃとも言える様々な伏線をちゃんと最後は回収して、衣装も華やかな大団円だった。
長澤まさみは可愛いだけでなく、大いにはっちゃけていた。秋山菜津子も緩急自在にぶたいを牽引。おねえと江戸っ子をくるくるかわる阿部サダヲのギャグも絶品だった。ゲイの親分・信長とヤクザの親玉・徳川を演じ分けた、存在感たっぷりの皆川猿時の芸達者も素晴らしかった。そして、芸大声楽科で学び元劇団四季の笠松はるの歌が、ずば抜けて良かった。休憩20分含め3時間30分だが、長さを感じなかった。特に第2幕はもっとみていたいほど。