親の顔が見たい 公演情報 Art-Loving「親の顔が見たい」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    本作は2008年2月に劇団昴で初演、そして同年の鶴屋南北賞にノミネートされたらしい。
    説明文から「いじめ」がテーマであることは知れるが、単に中学校内における「いじめ」には止まらない、実に多面的な問題提起をしている。
    室内における心裏劇、そして審判者なき審理劇のようでもある。しかし決して真理劇にならない怖さ。
    観応え十分だ。
    (上演時間1時間50分)

    ネタバレBOX

    新型コロナウイルス感染防止対策のため、舞台と客席をアクリル板で仕切り、舞台側の上方に時計、そして校訓の「真実」「友愛」という文字が掲げられている。折たたみ椅子11脚というシンプルなセット、しかし内容は濃密だ。上演前には校内の騒めきを思わせる雑音を流すなど、雰囲気作りは丁寧。

    梗概…都内の私立女子中学校、校内の会議室に5組の父母(もしくは祖父母)が集められる。いじめを苦に自殺した生徒の手紙(遺書と思われる)に5人の級友の名前が書かれており、その生徒たちの親が集められた。年齢や生活環境、職業が異なる親たちは、それぞれ自分の子どもは無関係とばかりに擁護することに終始する。いつの間にか親同士が激しく対立し怒鳴り声が高まる中、各家庭の事情や親娘関係が明らかになっていく。

    暴行を加え、金を要求し、足りなければ援助交際まで強要する悪質さ。これはいじめを超えた犯罪であろう。公演では、学校の事実確認・調査に対して、父母等は自分の子供に限ってという言動、いつの間にか学校側もその意見に飲み込まれ…。

    この戯曲が書かれた何年か前に、北海道で小学生の女生徒がいじめを苦に自殺した事件があったのを思い出した。当初、学校だったか教育委員会だったか忘れたが、いじめはなかったと結論付けた。しかし、遺族によって遺書が公開され一転して謝罪することになった。その後「遺書」ではなく「手紙」という説明まで飛び出した。
    この隠蔽体質、適当に誤魔化す対応が、いじめに対してきっちり対処できない一因ではないだろうか。さらに今日的にはブログやSNS等、責任の所在を曖昧にする巧妙なネットいじめが増えているのは周知のこと。

    公演では、学校でのいじめを通して様々な問題提起をしている。父母と娘のコミュニケーションの希薄さ、名門学校という枠組みに潜む差別・格差。山の手以外、例えば下町や近隣県からの通学生への蔑視、家庭の経済的な貧富、片親や職業への偏見、帰国子女への悪意ーそれは社会全体に蔓延る縮図そのもの。この公演はそれらに対する警鐘ではなかろうか。

    冒頭、1人の母親がスリッパを弄ぶ場面がある。そしてなぜ来客はスリッパで、教師は上履きなのだろうかと疑問を持つ。何気ない台詞、演出かもしれないがリアリティを感じた。父母の中に教員夫婦がおり、説明によれば男性教師は生徒を追いかけ、女性教師は生徒から逃げるためだという。
    やはり何年か前、男子生徒が女性教師から何かの理由で注意され、それが原因で女性教師が刺殺された事件を思い出した。それだけに一層リアリティを感じた。

    公演では、いじめた生徒は登場しない。しかし担任教師から、生徒達の様子は普段と変わらず平静だと言う。その生徒達はLINEで連絡を取り合い知らぬ存ぜぬを決め込む、そんな印象を持たせる。いじめのターゲットがいなくなれば、別の生徒を…そんな怖さを抱かせる。

    「親の顔が見たい」…このタイトルは、自殺した生徒がバイトしていた新聞販売店の店長の告発から来ている。親の顔も見たいが、心裏も確認したいところ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2020/09/20 08:17

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