明日ー1945年8月8日・長崎(2020年@シアターX) 公演情報 演劇企画イロトリドリノハナ「明日ー1945年8月8日・長崎(2020年@シアターX)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ずいぶん前に読んだ小説の舞台化。それも再演である。初演も観ているが、劇場が変われば舞台印象も変わる。
    初演に比べ横に広がりのある舞台は、物語の中心にある家族と、それ以外の情景を上手く描き分け、当時の状況・情景に広がりと奥深さを表す。
    (途中休憩を含め2時間15分) 【Aチーム】

    ネタバレBOX

    タイトルとサブタイトルから、公演の内容はほぼ把握できる。物語は終戦間際の1945年8月8日の長崎の情景。「明日」とは長崎に原爆が投下された8月9日のこと。カタストロフを「明日」に控えた大戦末期の長崎の一日を淡々と描く。戦時中とはいえ、空襲はわずかだけという台詞から、明日がくるものと信じている人々。しかしその日常生活が一瞬にして奪われる。

    初演に比べ広がりのある舞台だけに、上手・下手側に異なる情景を描き出す。まず、上手側では戦時下のおける人々の暮らし、それを点描していく。一方、下手側は三浦家の居間(結婚式)であったり、三浦ヤエと中川庄治の新婚家庭といった個人の心情を深堀する場面を展開する。上手・下手側の間には階段があり街路を思わせる。この昇り降りが淡々と描かれる暮らしの中に、わずかではあるが生活(躍動)感をもたらし、単調にさせない工夫を凝らす。また原作でも重要な”赤い月”をうまく照明を用いて、これから起きる悲劇を連想させる。やはり演出、舞台技術は素晴らしく、それを可能にしている舞台美術。それを劇場に応じて作り込む巧みさ。

    現実に密着した原作の舞台化、日常生活の背後に崩壊の予想を観ることになる。実は、今を生きる(演じている)人は8月9日の出来事を知っているが、原作(登場)人物はその予想ができず日常生活をごく当たり前のように送っている。その既知とまだ「明日」がくると信じている当時の人々の認識を埋めることは難しい。というか出来ないのではないか。だからこそ、描いている日常生活に敢えて異様な緊迫感を持たせるのは相当に難しい(小説ならば想像するが)。

    物語は結婚式を中心に、そこに列席した人達の生活等を次々と点描していく。それを通して各人が置かれている立場や抱えている心情がエピソード的に紡がれる。その語りは長崎の方言を用い、臨場感を漂わす。彼の地にいるようなリアリティを演出する上手さ。
    戦時下の生活は、最低最悪としての日常も現す。それは人への妬み(夫が戦地に出征しない)や、配給への強欲(嫌み)など、逆境ゆえに露わになる人間相互の不信感や排斥。普通(平時)の正義や正論では論じきれない悪意が現れるのも「戦争」ではなかろうか。本公演は、上手側での点描を通して戦争の不条理を浮かび上がらせていた。

    同時に全編を通して人の”生”の尊さも描いている。むしろ、本筋はそちらにあると思っている。公演では、下手側を中心にヤエの姉の出産(お手玉エピソード等を交えて)までを描く。小説では8月9日の未明に男の子が生まれている。そしてその数時間後に原爆が投下されるという不条理。初演ではラストを出産シーン+朱色照明(被爆イメージ)で余韻を残した。本公演では妊婦姿の姉は観られるが、”生”の尊厳が弱いというかあまり感じられなかったのが少し残念。

    この”生”が物語の根幹で、出産までの過程を縦軸とすれば、結婚式の参列者の点描が横軸。この両軸がもう少し相乗的に戦争=不条理を描き出せたらと思う。
    とは言え、小説の読み想像させる世界とは違い、舞台は観客の意識に関係なく視覚的に当時の情景を引っ張り込む。そこに小説では味わえない舞台の醍醐味をみた、そして感じた。
    次回公演も楽しみにしております。

    3

    2020/09/04 20:09

    2

    0

  • タッキー様
    本当にその通りですね。

    ――”平和”が今後も続くよう努めなければ、そんなことを考えながら観させていただきました。――
    そう感じていただけて、とてもうれしいです!
    どうもありがとうございました。

    また、お目にかかれる時を楽しみにしております。

    2020/09/28 01:42

    みかん 様

    コメントありがとうございます。
    小説(原作)を舞台化することで、それぞの良し悪しが確認できてよかったです。今回みたいに小説を演劇に 映画を演劇に,また逆もあるのでしょうね。平和な時代だからこその芸術であり文化だと思います。

    自分たちは、描かれた時代に比べ、平和な時代に生きています。しかし それは先人の犠牲の上にあることを忘れてはなりません。”平和”が今後も続くよう努めなければ、そんなことを考えながら観させていただきました。

    今後の公演も楽しみにしております。

    2020/09/27 16:51

    タッキー様、初演に引き続き、今回もご覧いただき、誠にありがとうございました。
    また、丁寧なご感想をいただき、感謝しております。
    実は初演と再演、台本の本筋はほとんど変わっていないのですが、演出の仕方によって、観る方の印象はかなり変わるのだなぁと、私自身とても勉強になりました。
    タッキー様のまさにおっしゃる通り、今回は、戦争という極限状態を生きる民衆の心の「明と暗」を意識した演出でした。
    結婚式という慶事の中で、明日に希望持っていると表向きには思われる登場人物たち。
    しかし彼らの心の中には、実際は明日への不安や恐怖もたくさん詰まっています。
    例えば父親である泰一郎は、この結婚式から数時間後に姉娘を手にかける話をするのですから。
    このような心の裏の部分は、今回、かなり意識して作りました。
    もしかしたらそれが、何かの形でお客様に伝わっていたのだとしたら、ある意味、演出の意図は伝わった、と言えるのかもしれません。
    また、このラストシーンは、実は初演も再演も変わっておりません。
    初演も今回と同じように、ある登場人物が死を迎えるシーンとなっておりましたが、おそらく暗を重きを置いた演出により、今回、そのシーンの印象が際立っていたのでしょう。
    出産という慶事、命の誕生という大いなる希望と対比する形で、不条理な死を描くというのは、初演当初からの狙いでありましたが、初演時にはぼんやりとした印象になってしまっていたのかもしれません。
    いつもながら、とてもよく観てくださっているのだなあと、嬉しく思います。
    どうもありがとうございました。
    またのご来場を心よりお待ちしております。
    この物語は、どのような状況にあっても、それぞれの登場人物たちが、精一杯、命の炎も燃やして生きる姿を描いた作品です。
    それが正しい道であろうとなかろうと、人は必死に生きていくのです。
    次回公演は、違う作品となるかもしれませんが、どうぞ見守ってくださいませ。
    どうぞよろしくお願いいたします。

    2020/09/24 17:32

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