イヌビト ~犬人~ 公演情報 新国立劇場「イヌビト ~犬人~」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    長塚圭史作演出の舞踊ドラマシリーズ(という名称ではないが)。パンフによれば「子ども向け」と。まあそんな感じだが、子どもの目に適う作品は大人の平均的評価を凌駕する、と考える自分にとって「子ども向け」とは「通常より高い作品レベルを目指す」と同義である。だから「子供向け」という概念そのものに意味を認めない。
    舞台を観ながら、過去の新国立長塚舞踊子供向けシリーズを思い出したが、過去作よりもストーリーが通っていて、舞踊畑の演者たちの俳優振りを見た印象。面白い場面もあった。見ると俳優陣の(知名度的な)レベルが高く、コロナ禍に結集といった裏物語が匂い、それに乗っかりやすい観客層の「3コール」も予測済みのようであった。
    物語を思い出すと・・何年か前に流行った伝染病(狂犬病)が理由でイヌが排外されている町に、ペットのイヌと一緒にある家族が移住してきたというのが始まり。私の理解が追いつかなかったのかも知れないが、「差別・排外に遭う種族」として設定されたイヌまたはイヌ族が、コロナ禍の現在に排外される「何」を象徴したかったのか、いまいちピンと来なかった。コロナ感染者への差別が、コロナが終息すれば無くなるものでなく人間の本質に根差すもの、というあたりの考察だろうかと思うが、私などは人間存在にとってのコロナ禍は、「それを嫌悪・排除する」という態度に隠れて表出されている「何か」を見る事で浮かび上るものと考える。そうした洞察を促す知的な要素が(子供向けだから回避したのか?)物足りなかった。
    中劇場での長田佳代子の装置は幻想的で壮観であった。

    ネタバレBOX

    岩淵貞太が主要な役の一つ、主人公がかつて飼っていたらしいイヌの亡霊を演じ、犬の鳴声(発声)も本域で俳優していた。
    彼はイヌが亡霊となった集団の一人として存在するが、その世界に迷い込んだ元飼い主(恐らく)がそれに気づいて声を掛ける。人間を敵視する彼らの一人である彼は始め激しく吠えているが、徐々に近づき、最後に手を差し伸べ、手を繋ぐという瞬間になる。
    この場面は終盤の見せ場だが、少々勿体ない感も。
    「接近」の時間が長く(客の一人の子どもが上演中ボソボソと喋るのが聞こえていたが、この時は「長い」と速攻コメントを発していた)、ある芝居での類似の場面が感動的であった事を思い出し、比較してしまった。
    TOKYOハンバーグ「KUDAN」では原発に近い被災地に放置された動物たちと暮らす一匹の犬が、避難の際に見捨てた事を謝りに訪れた元飼い主と対面する。「う~~」と唸り警戒心を露わにし、吠えもするが、ある瞬間ガッと走り寄って飼い主にむしゃぶり付く。人間との間に濃厚な関係を築いた犬の、心情を思わせる造形があったが、今回の場面では、彼は犬ではなくイヌ族として二足歩行をしている(元飼い主に接近するときはワウワウと鳴きながら四足移動していたが..)。警戒を解いて歩み寄る時間として「手を伸ばして相手が握るのを待っている」意思表示、即ち片手を相手に向けて差し出し近寄る、という経過があるがここが長い。相手(松たか子)が手を握って来る、というこの瞬間が一つの頂点な訳だが、遠目に見ると伸ばし合った手が握り合うという瞬間の視覚的な盛り上りが今一つ。松たか子にむしゃぶり付く、というのは演出上(タレント事情的に)出来なかったのか、と想像しなくもないが、犬と人間の関係であった過去に戻るのでなくイヌ族となった(人間の思考を持った)現在の彼との関係の取り結びとなっているのが、どれほど意味があるのかよく分からない。
    阿部海太郎の音楽(歌もあり)、舞踊のレベルも高いと思ったが、ストーリー重視の演目としては、しかもコロナ状況に打ち出すものとしては、この物語に暗鬱からの光明は見出しづらかった。

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    2020/08/27 01:10

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