まほろばの景 2020【三重公演中止】 公演情報 烏丸ストロークロック「まほろばの景 2020【三重公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    罪と迷いを抱えた青年の魂の彷徨を、山岳信仰と重ねて描く骨太なドラマ。
    2018年にも拝見した作品ですが、冒頭の祝詞から厚みのある声の重なりに胸を突かれ、より鮮烈にこの作品の世界観、風景に「出会った」感がありました。

    日常会話と語り(独白)、祝詞、神楽……。異なる言葉と身体を交錯させ、存在の根源を探ろうとする手法、テーマは、現代演劇の歴史の中でも長く受け継がれてきた、オーセンティックとも呼べるものです。でも、だからこそ、それを高い完成度で、今日に響くかたちに昇華させたことに意義を感じます。

    ネタバレBOX

    行方不明になった自閉症の青年を探し、山を歩き続ける主人公。
    山行のなか、その胸に去来するのは、彼から目を離してしまったことへの贖罪の意識だけではありません。地元で舞った神楽のこと、東日本大震災の直後に再会した不倫相手とのこと、幼馴染にされた説教、そして、行方不明になった青年の姉との関係……山で出会う人(台本上は「なかま」と表記されます)によって演じられる回想はどれも、彼の鈍さや弱さ、迷いの根深さを浮かび上がらせます。

    とはいえ、「なかま」も、彼らが演じる登場人物も主人公を糾弾するために配置されているのではないはずです。劇中では、死んだ人は33年にわたって山をめぐり、生きていた罪をおとす、との山伏の言葉も紹介されますが、生きながらにして赦されることはないのか、あるとすればそれはどのように訪れるのか、というのが、この作品のテーマだからです。

    登場する人たちは皆同様に、普通の、美しくも正しくもない、罪を持つ人たち。そして、この上演でいちばん印象に残っているのは、この「なかま」たちの、場面ごと会話ごとには「わかる」し、身近な存在にすら見えるのに、彼らを「(たいして)知らない」とも感じさせる奥行き、リアリティでした。とりわけ二人の女性(阪本麻紀さん、あべゆうさん)が醸し出す生活感と寂しさと色っぽさ、業のありようは、今も生々しく思い出されます。あの、よく知らない人たちの存在感があってこそ、終幕の広大な風景はありえたのかもしれません。

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    2020/05/02 07:22

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